埼玉でじわじわと実力をつけはじめ、徐々に存在感を発揮している創部8年目の新鋭校こと開智未来。2011年に開校すると、野球部は2014年から軟式野球部として始動。その後、2017年から硬式野球部へ移籍し、2024年で8年目を迎えた。
開智未来・野球部訪問①:ジャイアンツ球団職員→バックパッカーを経て監督へ?! 埼玉に現れた創部8年目の新鋭校に躍進の予感
開智未来・野球部訪問②:まさか日大三のコーチに?!創部8年目の埼玉の新鋭校の指揮官が学んだ、U-18代表監督の選手育成メソッド
開智未来・野球部訪問③:ジャイアンツV9時代の名選手から教わった「プロの意識の高さ、厳しさ」を糧に!創部8年目の埼玉の新鋭校がチャレンジ精神で新たな歴史を作る
目標は世界平和?大きすぎる目標の裏側にある信念
「個人的に『1から野球部を作って、甲子園に行きたい』と思って、あえて野球部のない学校を探しているなかで、何の繋がりもない学校を自分の手で探したいと見つけたのが、開智未来でした」
チームの指揮官である伊東悠太監督は、真っすぐで力強い眼差しで練習を見つめながら、赴任に至るまでの経緯を語った。
高校時代は、東東京の順天で主将を務め、東海大ではスポーツ心理学を専攻。卒業後、ジャイアンツの球団職員を務めるなど、野球界の第一線に携わってきたからこそ、「(チームの)立ち上げには、すごくこだわった」と語る。
というのも「伝統校は決められた形があり、本質を考えて、フットワーク軽く今の最善を尽くすことは難しい」と知った。もちろん「伝統から学ぶ多くのこと」がある価値は理解している。だからこそ、伊東監督は恩師から学んだことや高校野球の伝統を生かしながら「自分のやりたい形で野球をしたい」という思いから、立ち上げからこだわりを持った。
そんななかで、大きな目標として掲げたのは「世界平和を考え、行動できる人材の育成」だった。最近は、人間育成を目標にする学校は増えたが、開智未来は、なぜ「世界平和」という言葉を目標に入れたのか。
「バックパッカーとして、1年間ほどかけて世界一周をしたんです。もちろん、野球界に戻るつもりで飛び出したんですが、監督になる前に、『野球界で何を武器にすることができるだろう』と思って、強みを見つけるためにも、肩書のない状態でバックパッカーとして旅に出たんです。
そのとき、イスラエルに訪問して、首都・エルサレムのオリーブ山にある寄付制の宿に立ち寄ったんです。そうしたら、すぐに食事を出してくれて、正直『なんだここは』って思っていたら、『どうしてこんなことをしているか、わかるかい?』って声をかけられたんです。正直、当時の私は『なんでかわからない』って答えたんです。
そうしたら、『世界は1つの庭なんだよ。色んな花があるからキレイなのに、1つの花だけを咲かそうとするから戦争になる。だからここで出来ることをやっているだけなんだ』って答えてくれて。それを聞いたときに、教員としてやるべきことが見えたと思って、生徒たちにじっくり伝えようと思って、指導しています」
伊東監督は当時、東南アジアから渡り歩き、イスラエルに来たという。そういった各国の情勢を見てきたからこそ、「自分の中で、旅のゴールが出た気がした」という。だが、果たしてどんな指導をしているのか。
「教室であれば、たとえば色んな生徒がいますよね。なかには仲良い人もいれば、嫌いな人、かっこいい人など色んな人がいる。そこで好き嫌いして、『アイツさ』って始めると、喧嘩が始まります。世界平和の入り口って、そのくらい近いところにあると思っています。
野球だって、うちは練習試合では勝つために真剣勝負で戦って、終わったら『練習試合ありがとう。楽しかった』って話ができるような関係でいられるようなチーム、選手でいようと思っています。だから150キロを超えるような剛速球を投げていても、ユニフォームを脱いだら、問題を起こすようではダメだと思って、指導するようにしています」