2014年から軟式野球部で始まり、2017年には硬式野球部へ。2024年に初めてとなる夏の大会で勝利した創部8年目・開智未来。強豪ひしめく埼玉で、徐々に力を付け始めている新鋭校だが、そこには指揮官・伊東悠太監督が仕掛ける創意工夫がある。
開智未来・野球部訪問①:ジャイアンツ球団職員→バックパッカーを経て監督へ?! 埼玉に現れた創部8年目の新鋭校に躍進の予感
開智未来・野球部訪問②:まさか日大三のコーチに?!創部8年目の埼玉の新鋭校の指揮官が学んだ、U-18代表監督の選手育成メソッド
開智未来・野球部訪問③:ジャイアンツV9時代の名選手から教わった「プロの意識の高さ、厳しさ」を糧に!創部8年目の埼玉の新鋭校がチャレンジ精神で新たな歴史を作る
短い練習時間でも充実させる、会話と思考の習慣
取材日、練習が始まったのは16時半。1塁側ベンチに選手たちが集まると、ホワイトボードに練習メニューが時間ごとに記載されていた。19時頃までしか練習ができず、整備を除けば2時間程度の練習時間。1分たりとも無駄にしないように、選手同士が学年の垣根を越えてコミュニケーションを取りながら、練習が進む。
時折、笑顔を見せながら練習に取り組む姿は、どこか野球に真剣に取り組みながら、楽しんでいるように見えた。主将である銭谷出海外野手は、この状況について「自分たちで考えてやらせてもらえるのは、選手同士で確認しながら出来るので良いんですが、主将としてメニューを考えるのは大変です」と良さと同時に難しさを語る。
銭谷主将の話す通り、開智未来は練習メニューも含めて選手主体で進んでいくのが特長である。近年は多くのチームでも選手主体でチームを運営するところが増えたが、開智未来も採用している。
「私が全て決めて成長するんだったら、私が決めます。でも私が思いつかないようなメニュー、アイディアを出してほしいし、選手たちは発想を出す機会もあまりありませんから、任せています。なので、狙いや目的もなく、先輩たちと同じメニューをやろうとするときは、出来る限り『新しいのをやろう』っていうことで、考えさせるようにします。
あとはこの形が、これからの高校野球だと感じているんです。もちろん今までの100年で、勝負所で覚悟を決められる強い意思、ハングリーな選手を育ててきた高校野球の文化も大事です。でも今後はそれだけじゃなくて、しっかりとコミュニケーションが取れたり、自分で考えて行動できたりするのも必要だと思うんです」
2年生・藤本光輝内野手に話を聞いても、会話を大事にしようとしているのが伝わってきた。
「練習試合も、伊東監督が相手校の監督とのご縁があってできるものですし、対戦する相手選手とも、社会人になってからどこかで会うかもしれない。だからもし話をする機会があってもいいように相手校の監督さんはどんな人なのか調べてみたり、整備の時に相手選手と会話をしたり。そういう縁の大切さは学んでいると思います」
実際、開智未来は2年生が3人、他は全員1年生という構成。だから、試合にも1年生が多く出場する。2年生が控えに回ることが多いが、「後輩たちに聞くことを恥ずかしがらず、自分が上手くなるには、後輩に聞くのが一番だ」と銭谷主将は考えて、後輩にも積極的にコミュニケーションを取る。だから結果的に選手主体でも練習は進み、2時間程度の短時間でも充実の練習内容になっているのだろう。