12月4日、「ミズノスクエア松本」の10周年記念イベントで、ミズノブランドアンバサダー・菊池涼介選手(武蔵工大二(現・東京都市大塩尻)出身・広島カープ)のトークショーが行われた。この日は、菊池選手のグラブを担当しているミズノ社の伊藤クラフトマン、司会者にDJケチャップが登壇し、菊池選手のグラブへのこだわりをたっぷりと語り合った。
一流のプロ選手の中でも、菊池選手のグラブに対する細かなこだわりに、参加者たちは終始、驚きの声をあげた。
例えば、雨の日にプレーした夜は、あえてグラブの手入れはしない、乾かさない。シーズンを通してグラブは一つしか使わない。グラブ作りは、工場に足を運び、実際に革を見て、使用する革の部分を決め、あえて傷のある部分を選ぶこともあるなど、会場で語られた菊池選手ならではのこだわりをここでも紹介したい。


――ミズノの伊藤クラフトマンが作るグラブはいつから使っていますか?
 
菊池:2年前くらいから使い始めました。当時、中々納得のいくグラブが出来上がらなくて。その時に石井琢朗さんにすすめられたグラブがめちゃくちゃ最高で、そこからミズノのグラブを使ってみたいなと思って。あとは、ぼくはグラブに対しての思いが強いんですが、そこを伊藤さんとも共有できることがとてもよかったです。

伊藤:菊池さんのグラブを担当させていただいてから、グラブの試作を繰り返して、ものすごい数のグラブを作って意見をいただきました。最初は、『これで大丈夫』と言っていただけるまでに、一年くらいかかりました。

菊池:グラブも、人間と同じで、同じ体格や骨格のものは一つもないし、(納得のいくグラブに)中々出会えない。手にはめた時に小さく感じるなというのは閉まりすぎているし、モアッとしているなと感じるものは緩いので、何度も交換をしました。

伊藤:グラブは最初の革選びがものすごく重要で、菊池さんも自分で革を見られて、使う部位を選んでいきました。

菊池:自分で革選びに行きはじめてから、動物や牛の大切さを改めて感じました。また学ぶことも多く、(牛が)怪我をした傷の部分は、硬くなって収縮するのでそういうのは市販のグラブでは使われない。でも、そういう話しを聞いた時に、傷があるほうが強度が増しているから、傷があるほうがいいんじゃないかと考えたり。それくらいグラブは、革のどこを取るかでグラブの状態が変わってきます。おしりから取るのか、背中から取るのか。この革はどこが張りがいいのか、質がいいのかとか。

伊藤:菊池さんは部位の硬さ、厚さを見ながら、面はここ、表指はここ、とさわりながら全部決めていかれました。ただ、実際にグラブをつくり始めてから、イメージ通りに合うかが大変なところで、立体型になってくるとだんだん変化もしてくるんですよね。これは、いけそうだなとか、これはだめだなとか、毎回思いながらグラブをつくっていました。ただ、そのやり取りの中で、私自身、菊池さんから育てていただいたと感じることは大きいです。手を入れた時にどこの指が動いて、どこを動かさないのか。残すところ、曲がるところ。菊池さんからはそういった細かいところをかなり教わりました。

菊池:グラブは個性が一つ一つ違うので同じように使っていても同じようにならないんです。全く一緒の双子のグラブというのは、今までに一つも出会ったことがないです。それに今年は良くても、来年は今年使ったグラブは、もう使いません。
これ以上やわらかくなったら、速いライナーや横飛びで取る打球がこぼれるんです。だから年間で使うグラブは一つだけ。一年間、使い終わったグラブは、全部ロッカーに置いておきます。それは(翌シーズン)修正が間に合わなかったり、紐が切れた時に使います。グラブは自分の体の一部で、僕の手だと思ってるので、今まで信頼して選び抜いたものがないと不安なんですよ。

――それほどグラブへのこだわりが大きい菊池選手ですが、雨が降った日は、何もグラブのケアをしないと以前伺いました。

菊池:油をぬって重くなると感覚の違いにつながるので、雨が降って、ゲームが終わったら乾かしません。それは、その日のプレーした感覚が残っているので、乾かして軽くなってしまったら次の日、同じような感覚でプレーができなくなるからです。重くなった感覚でいきたいんですよね。
グラブの革は生きているので、例えば、新しいグラブを1シーズン使わずに置いておいて、次のシーズンにはめたら、油分や水分が抜けていて、いい感じになっていたりすることもあります。それくらいグラブの革は、生きているんです。
(インタビュー一部編集)


 この日、菊池涼介選手のトークイベントに参加した子どもたちは、
「菊池選手がグラブを一年間で替えているという話しに驚きました」
「グラブが生きているという話しを聞いて勉強になりました」
と、うれしそうに語った。
 菊池選手は、来シーズンに向けて、どんなグラブをつくっていくのだろうか。プレーとともに、菊池選手のグラブにも注目したい。