「高校では野球をやらずに地元の高校に通って、普通に過ごそうと思っていました」
そう語るのは、この春、速球派右腕として全国に名を轟かせた吉留 勇太(3年)だ。
4月13日、四日市市営霞ヶ浦球場に行われた、いなべ総合との県大会初戦。ここで吉留のストレートは155キロを計測する。それ以外の投球でも150キロ台を連発して、一躍脚光を浴びたのだ。
高校球界屈指のスピードボールを投げる吉留はなぜ、近大高専という技術者を養成する5年制学校に進み、この2年数ヶ月でどのような成長を遂げたのか。また、注目が集まる今後の進路についても迫った。
中学時代の最速は126キロの「5番手投手」
大阪府大阪市出身の吉留は両親の勧めで小学1年生の時に「諸福スパイダーズ」で野球を始めた。当時は捕手や外野手を務めていたという。中学では井上 広大(履正社-阪神)らを輩出した「東大阪リトルシニア」に所属。ここで友人に勧められて、投手を始めることになった。
しかし、「制球が定まらないというのがずっと続いて、あまり思うように野球ができなかったです」と苦しい3年間を送る。本人曰く「5番手投手」。球速も126キロと目立つ結果を残すことができなかった。
吉留は中学で野球にピリオドを打つつもりだった。しかし、東大阪リトルシニアの総監督に勧められて近大高専で野球を継続することを決めた。現在は近畿大のレギュラーとして活躍している白石 晃大外野手(4年)など東大阪リトルシニアから近大高専に進んでいる選手は多く、以前からつながりのあるチーム同士だったのだ。
近大高専はその名の通り、工業高等専門学校である。エンジニアなど理系の人材を育成する学校であるが、吉留は決して理系科目が得意なわけではなく、そうした道にも興味があるわけでもなかった。
現在は都市環境コースの土木系に所属しており、測量などを学んでいる。学業面は順調にこなしているが、「今でもたまにしんどいことはあります」と懸命に食らいついているようだ。