原点に立ち返った指導で上位進出となるか

「自分は元々、現役時代は社会人の軟式野球までやりましたが、中学の時は6番手投手。高校入学時は104キロしか投げられなかった。『変わったな』って言ってもらいたくて140キロを投げられる投手に成長したけど、根本的には能力があるわけではない。大したことのない選手でした。
だから、伝えるべきことはしっかりと伝えて、そうじゃないときは必要以上に踏み込まない。もしかしたら、企業でいうところの中間管理職みたいな距離感で、これまで以上に選手やコーチに謙虚な姿勢で接して。原点に立ち戻った感じですね」

近づきすぎて見えなかった自身がすべきことに気が付くために、伊藤監督は1歩、2歩、選手たちと距離を作った。視野を広げて見渡したことで、力が抜けて本質に気が付いた。これには指導者である深谷 友輔先生も、「雰囲気が違う。チームが変わった」と話す。

もちろん選手たちの変化も大きい。
「練習試合から請う意識戦を意識して緊張感をもって、練習では練習メニューを先生方に伝えるようにして、取り入れてもらうようになりました」(小野主将)

「経験を積んで引っ張る立場になったからこそ、やってはいけないことに気が付くようになった。だからここは自分たちで切り替えよう、野球は野球だと思ってやりました」(勝本)

その姿には部長の伊藤大祥先生も、「誰に聞いても悔しい期間だったといいますし、それがあったからいいスタートを切れたと思います」と話すほど変化が生まれた。

その結果が、今回の秋季大会でのベスト8だ。なかでも予選の代表決定戦で対戦した東京学館船橋戦。前半5回が終わった段階では、日体大柏がビハインド展開で折り返し。これには「諦めかけていました」と伊藤監督は選手たちの雰囲気を振り返る。

伊藤監督はある選手に「前半までどうだ」と声をかけたという。すると、「やばいっす」と一言。日体大柏の悪い伝統が出掛けていたからこそ、「ミスしてもいいからいい顔してやろう」と一言かけてチームを鼓舞した。

そうしたら「いけるっしょ。いきましょうよ」と徐々に声が出始め、チームは立て直した。夏までに積み重ねてきたものを自信に変えて、何とか逆転勝ちをおさめて県大会に勝ち上がった。

そして県大会でも勝ち上がり続けて、ベスト8までたどり着いた。近年、苦しんで、もがいて、そこで気が付いた本質があるから、日体大柏は再び上位進出を果たした。だから伊藤監督はこんなエピソードを出した。

「秋が終わって挨拶するとき、3年生が応援に来てくれていたので、保護者の前で3年生の話をしてしまって。そのときに涙が出てきたんですよね。夏の大会で銚子商にコールド負けしたのは、かなりダメージが大きくて。それほど大きな差があったわけではないんですが、夏の大会で勝つ喜びを教えてあげられなかった分、申し訳なくて、ずっと苦しくて。今でもたまに夢に出るくらい後悔していたので」

春はもちろん追いかけられる立場になるが、もっと高みを目指す戦いになる。甲子園出場のためにも、「ウエイトで体を大きくしたり、走力を上げたりすれば、秋も勝てた試合だと思います」と小野主将は語る。

そのうえで、「この練習はどんな意味があるのか。選手たちに伝えながら、自分もしっかりと取り組んで、甲子園に行けるようにしたい」と意気込みを語った。

千葉は甲子園に行くのは容易ではない。それは小野主将もわかっている。だから「練習量で勝るしかないと思っています」と甲子園に行くためにやりきる覚悟はある。その覚悟、そして秋に残した実績が本物か。真価の問われる春になりそうだ。