定期的に見続ける

 高校の監督が中学生に直接話ができる機会が一度だけある。中学生が進路選択を考える10月以降、話を聞いてみたいと希望する生徒を校長経由で集めて、説明会をする。ここで直接、新開監督に声を掛けられて隼人工への進学を決めた部員は多い。


秋の8強入りの原動力となったエース浅井。中学時代は3番手投手だった

 2年生エースの浅井聖は帖佐中の3番手投手だったにもかかわらず「高校では投手として考えている」と言われたことに心を動かされた。主戦で投げていた試合は少ないが「肩肘の使い方が柔らかく、制球が良い投げ方をしている。僕の中ではこの地区で一番良い投手という評価でした」(新開監督)。

 1年生の前田大夢は189センチの長身投手だが「栗野中の頃は160センチぐらいしかない内野手だった」。2年間、定期的に通っているうちに身長が30センチ近く伸びていることに気づいた。

 中学3年生の最後の大会を見る指導者は多い。その大会で良いプレーが目に留まれば、声を掛けるきっかけになる。新開監督が強みに思っているのは、定期的に長期のスパンで見続けているので「変化」や「成長」した姿に気づける点である。最後の公式戦での良し悪しだけでなく、判断する視点を数多く持っている。実際に声を掛けるのは説明会が初めてだが「『初めまして』ですが、君のプレーは10数回見ています」と自信を持って言える。

二本柱

 部の指導者として「いる部員を大事にする」ことは何より大事だ。人数を確保するために中学校周りに時間をかけてはいるが、現在活動している部員たちをほったらかしては本末転倒である。

「先生、僕たちのためにも後輩をたくさん連れてきてください」

 新開監督は、当時6人しかいなかった部員たちから背中を押してもらえたことが忘れられない。部員たちも、9人に満たない人数でちゃんと大会に出られるかどうか分からない不安を抱えて練習をするよりも、多くの仲間がいてワイワイしながら練習する方が楽しい。何より単独チームで出場して勝ちたい気持ちを強く持っていた。

 部の練習を工夫し、いる部員たちのレベルアップを図ることと、中学生の勧誘活動。部を運営する二本柱である。

 良い練習をして部員たちが少しずつうまくなる。「練習が楽しくてうまくなった」という評判が部員から保護者に伝わり、保護者同士のネットワークで評判が徐々に広がっていく。部員を大切にすることと、中学生の勧誘活動がうまい具合にリンクし、「相乗効果」が積み重なった成果で23年は17人、24年は18人の新入部員が集まり、現在35人の大所帯となった。

甲子園を目指す!

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