第97回選抜高校野球大会(センバツ)は3月18日に開幕(阪神甲子園球場)を迎える。大会開催を前に、出場校の過去のセンバツの戦いぶりを振り返る「出場校あの日・あの時」を紹介していく。今回は、2015年に悲願の北陸勢初センバツ制覇の偉業を成し遂げた敦賀気比(福井)にスポットを当てる。
この年のチームには、絶対的エース・平沼 翔太投手(3年)がいた。後に野手として日本ハム4位でプロ野球界入りした大黒柱だった。さらに2年生として後にオリックスに入団する山崎 颯一郎投手がいた。その他、レギュラーの多くは大学、社会人野球入りして活躍するほどレベルが高かった。しかし、この年のセンバツで「主役」だったのは、背番号17を背負った松本哲幣外野手(3年)だった。
奈良大付(奈良)との初戦で6番左翼でスタメン出場すると4打数3安打。チームの快勝に貢献した。2回戦は、平沢 大河内野手(3年・現西武)を擁する仙台育英(宮城)と対戦。松本は無安打に終わったが、平沼が平沢を抑えて勝利した。現在はともに西武に所属する2人だが、奇しくもここで対戦していた。
準々決勝の静岡(静岡)戦では、松本はスタメンから外れ、途中交代で守備についただけだった。チームは9回サヨナラ勝ちしたが、松本は「蚊帳の外」でもあった。
その右打者が、優勝候補筆頭の大阪桐蔭(大阪)との準決勝で、ついに素質を開花させる。6番右翼でスタメン出場すると、1回に巡ってきた満塁のチャンスで本塁打を放って見せた。公式戦初アーチが甲子園での満塁弾となり、チームに勢いをつけた。しかし、物語はここからが本題に入る。2回にも再び満塁で打席が回ってくると、またも本塁打をかっ飛ばした。2打席連続本塁打。それも2本とも満塁弾。甲子園のファンからも、驚きを隠せないどよめきが起こった。2打席連続満塁弾は、もちろん春夏通じて甲子園史上初。背番号17の選手が成し遂げた偉業は、まさに「シンデレラストーリー」だった。松本の活躍に押されたチームは11対0の圧勝。平沼は大阪桐蔭打線を4安打完封し、圧勝した。
松本のストーリーは、終わらない。東海大四(北海道=現・東海大札幌)との決勝では、8回に勝ち越しの2ランを左翼席へ突き刺した。準決勝で4打数3安打8打点、決勝でも3打数1安打2打点。2試合で3アーチ10打点を稼いで、福井県勢初、北陸勢としても初のセンバツ頂点を導いた。
もちろん、平沼らの活躍なくしては優勝できなかったが、松本の「シンデレラストーリー」なしでは語れない。もう2度と、今後こんな景色は見られないかもしれない。敦賀気比の優勝への道のりは、永遠に語り継がれることだろう。
あれから10年。5年連続センバツ出場の敦賀気比は、すっかり全国強豪の仲間入りを果たした。今年も主将の岡部 飛雄馬内野手(2年)に引っ張られるナインから、再び「シンデレラストーリー」の主役が生まれることを期待したい。