1988年生まれ――。斎藤 佑樹投手(早稲田実)の活躍から「ハンカチ世代」とも呼ばれるこの世代には、坂本 勇人(光星学院=現・八戸学院光星)、田中 将大(駒大苫小牧)、前田 健太(PL学園)ら球界を代表する選手が名を連ねる。
高校時代、彼らと並ぶ“超高校生級選手”として大きな注目を浴びたのが、増渕 竜義氏だ。ドラフトでは2球団競合の末、ヤクルトにドラフト1位で入団。大きな飛躍を期待されたが、弱冠27歳で現役を引退してしまった。現在は地元埼玉で野球塾の塾長を務める増渕氏の野球人生に迫る。
■インタビュー前編「先発再転向で「投げ方が分からなくなった」元ドラ1右腕が語った苦悩」を読む
何の前触れもなく突然のトレード宣告で
シーズン開幕直後の出来事だった。プロ入りから8年、前シーズン5登板の悔しさから復活を遂げるべく臨んでいた増渕氏に一本の電話が入った。
<今から球団事務所に行ってくれ>
突然の連絡に「え、みたいな。自分なんかしたのかなって」と頭の中を巡らせていた。
そこで伝えられたのは予想だにもしないことだった。
「『トレードで日本ハムに行ってもらうことになったから』と言われました。『これから東京ドームホテルに行ってくれ』って。何の前触れもなかったです」
3月31日に日本ハムと今浪 隆博内野手(平安=現・龍谷大平安ー明治大)との交換トレードが成立。北の大地で腕を振ることとなった。
そんな増渕氏を支えた一人が、当時日本ハムの指揮官だった栗山 英樹氏だ。2010年、栗山氏が報道番組のキャスターをしていた時に取材を受けて以来の再会。心境的にも落ち着かない中、対面した指揮官の言動に救われたという。
「第一声で『増渕君は大丈夫だから。絶対大丈夫』って言われました。『一度ゼロにして、ゼロからのスタートでいいから』って言われたんです。それで気持ちはすごく楽になりました」
こうして「お父さん的な存在」と語る栗山監督のもと、新たな生活をスタートさせたのだった。