また、履正社時代から練習では木製バットを使わせていたことも有名な話である。今の東洋大姫路でも投手が投げる実戦形式のシート打撃やフリー打撃で木製バットを使う選手の姿が何人か見られた。
渡邊拓雲主将(2年)によると、取材日はセンバツが約1ヶ月後に迫っていることもあり、金属バットを使っている選手が多かったが、12月頃は殆どの選手が木製バットを使用していたという。「これから大学や社会人に行く選手も多いので、木に慣れていこうとは自分も思っています」と渡邊拓はこの日も木製バットで練習を行っていた。
履正社で木製バットを使うようになったのはT-岡田が在籍していた2005年頃。きっかけは「浪速のゴジラ」と呼ばれたT-岡田の高校時代を象徴するようなエピソードだった。
「T-岡田の場合は状況が違って、金属バットで打つと危ないので、Tには木で打たせていたのはありました。彼も将来的には、プロ野球でやりたいという希望持っていたので、『プロ野球は金属バットじゃないから、もう木で練習せえよ』という話ですね。そこからだんだん広がっていって、(履正社の)ほとんどの子は木で打っているんじゃないですかね」
昨年に導入された新基準の金属バットについて、様々な指導者や選手に取材をする中で、「木製バットに近い」といった感想を聞くこともある。岡田監督は新基準バットを「折れない木製バット」と認識しているようだ。
「皆が『飛ばない』と言いますが、履正社の時はずっと木で打っている様子しか見てないから、あまりそういう感覚ないんですよ。『折れない木になったんやな』という感じなので。金属バットだけを見ている人が『飛ばない』と言っても、それは飛ばなくしてあるので、それは仕方ないんじゃないですかね。木で打てたら、(新基準バットでも)打てるようになるんじゃないですかね。逆に折れない分だけ、思い切って振れると思いますけど」
昨秋の近畿大会や明治神宮大会では低反発バットを感じさせない打撃を見せつけた。それには岡田監督も手応えを感じている。
「きちんと打てば球も飛ぶし、強い打球も打てるし、僕らはそのために必要なものを彼らに情報提供しているので、それをクリアしている子というのはそれができるようになっているというのも、彼らもちょっとはわかったんじゃないですかね」
新基準バットの導入については賛否両論あったが、「高校生の技術力を上げようと思えば、新規格になって良かったんじゃないですかね」と肯定的だ。長打が以前より減ったことで小技や走塁を磨くチームも増えてきたが、岡田監督はバットが変わっても打てるチーム作りを目指している。
「大学生も木でホームランを打ちますから、きちんとそういうものができたら、新規格でも打てるじゃないかなと僕は思っていますけどね」
スモールベースボールを極めれば、勝つ可能性が高くなるかもしれないが、選手として上を目指すには強打ができるようにならなければならない。岡田監督が就任した当初は卒業後も野球を続ける選手は1割程度だったが、新3年生は6~7割が継続する予定だという。そのためにも正しい打撃技術を身に付けて、上のステージに送り出すことを岡田監督はイメージしている。
母校の伝統を大切にしながらも時代の変化にも対応し続けている岡田監督。63歳の名将は常に進化を求め続ける。