春季キャンプで見られた阪神の支配下枠をめぐる激しい昇格争い。藤川球児監督は支配下空き4枠のうち、1枠を育成選手の昇格に使うと明言していた。
その競争を勝ち抜いたのは、育成1位のルーキー・工藤泰成投手(明桜-東京国際大-徳島インディゴソックス)だった。工藤は5日の中日戦(甲子園)で最速157キロの速球を投げ込んで1回無失点、2奪三振の快投を見せた。これが決め手となり、6日に藤川球児監督が激励会で工藤の支配下選手登録を明言し、開幕前の昇格が決まった。しかしキャンプ当初から昇格争いの一番手ではなかった。
キャンプは二軍スタート。2月8日、9日に行われた紅白戦でも登板しなかった。一方で剛腕左腕・伊藤 稜投手(中京大中京-中京大)、右サイドの速球派・松原 快投手(高朋-ロキテクノ富山-富山GRNサンダーバーズ)が好投を見せ、この2人が支配下に向け一歩抜け出したかのように見えた。
風向きが変わったのは、2月16日の広島戦。工藤は最速158キロをマークし、1回無失点の好投を見せたのだ。その後も3月5日の中日戦まで4試合連続無失点、四死球ゼロに抑えた。毎試合、常時150キロ中盤、最速150キロ後半の速球を投げ込み、「最速159キロ右腕」という看板に偽りのないことを証明した。こうして工藤は一気にライバルを追い抜き、支配下登録を勝ち取ったのである。
この投球を高く評価したのが、工藤同様、徳島インディゴソックス、阪神でプレーした福永春吾氏だ。シーズン前に工藤の課題について福永氏は「確実に相手を打ち取れる変化球が必要になるでしょう」と語っていたが、予想を上回る投球だった。
「常時150キロ後半の速球は、良い投手が多い阪神の中でも突き抜けた存在です。コントロール、変化球の精度、走者を出してから安定感はシーズン前の予想を上回りました」
中でも四死球を与えていないことを福永氏は評価した。
「強く腕を振りながらもストライクが取れるのは、理想的です。本人は本指名されなかった悔しさから、モチベーション高くやっていましたよね。それが空回りせず、パフォーマンスアップができています」
また福永氏は支配下登録を早めに決断した藤川球児監督の決断も評価した。
「出力が高いパワーピッチャーである工藤投手に配慮しての決断と聞きましたが、素晴らしいですよね。経験上、アピールするために良い投球をするために出力を上げようとすると、気負いもあって、故障のリスクが高まります。長年、抑え、中継ぎで活躍していた藤川監督だからこそこうした決断ができたのだと思います」
今後、工藤はどのような調整をしていくのだろうか。
「これからはある程度、間隔をあけながら、コンディション重視で起用すると思います。支配下に入るためのアピールは終わったので、これからは一軍の戦力として戦うためのスキルアップの期間に入りました」
中継ぎタイプの剛腕の支配下昇格というと、中日の松山 晋也投手(八戸学院野辺地西-八戸学院大)がいる。松山はシーズン途中に昇格し、1年目は36試合で防御率1.27、17ホールドと素晴らしい活躍を見せた。
「藤川監督は慎重に起用していくことになると思いますが、今のような四球を出さず、三振を取るパワーピッチングは理想的ですので、段階を踏んでいけば、松山投手のようなパフォーマンスは期待できると思います」(福永氏)
育成昇格からいきなり中継ぎで大車輪の活躍となるか。シーズン中でも甲子園を沸かせるパワーピッチングを期待したい。