「野球7回制」は実際どうなのか? 導入された社会人野球で聞いた選手・指導者たちの賛否両論
日本高等学校野球連盟が試合の7回制導入へ向けたワーキンググループを設置することになった。WBCを除けばU―18代表などですでに導入されている。
昨年より全試合7イニング制で開催されている社会人野球大会「JABA広島大会」を4日間連続取材。関係者の声も多数交え、「高校野球7イニング制」を考察してみることにした。
7イニング制は「接戦」「ジャイキリ」の可能性あり
昨年2月、JABA(日本野球連盟)の理事会において「試合内容を濃密かつスピーディーなものとして、社会人野球の価値を高めること」を目的として、全国9地区40大会で「7イニング制大会」の実証実験を決定。JABA広島大会もその対象となった。
では実際の試合はどうか? 7回終了で同点の場合は引き分けとなる予選リーグ全12試合を取材した限りでは、9回制とは明らかに試合の様相が異なっていた。
まず12チームが4グループに分かれた予選リーグのスコアを見ると、12試合中5回以降10点差が規定のコールドゲームが4試合に対し、引き分けも3試合。さらに残る5試合中4試合も3点差以内の接戦だった。
大会初優勝を遂げた三菱自動車倉敷オーシャンズが、三原ヤッサベースボールクラブに7回裏二死までリードされ、5対5で引き分けた試合では、「コントールよく投げる投手に対峙した場合、相手に先行される展開になると焦りが出る」と首藤 章太監督。7回制の怖さを体感する試合となった。高校野球でも7回制が採用された際、今まで以上に1点の重みがのしかかり、ジャイアントキリングが起こるパターンを想起させる試合だった。
社会人野球選手が語るメリット&デメリット
次に7回制をプレーした選手たちに話を聞くと、彼らも9回制との違いを如実に感じていた。
まず伯和ビクトリーズの4番・中山 竜秀外野手(九州国際大付=8年目)は「7回制はチャンスが少ないし逃したらダメ。守備も含めて1つのミスがリズムを崩すことになる」と試合を振り返った。
リリーフで奮闘した大和高田クラブの左腕・松林 勇志投手(智辯学園-追手門学院大=7年目)は「9回制の試合では5回のグラウンド整備時に立ち投げをしてから準備ができるが、7回制だと登板の1イニング前に準備を前倒しすることになる。正直9イニング制の方がいいです」と、調整の難しさを口にした。
一方、先発投手にとってはメリットが多いようだ。大和高田クラブを7回無失点に封じたJFE西日本の大黒柱・筒井 恒匡投手(松本工-日本体育大=3年目)は「7回制の方が気持ちは楽な部分があります。最初はストライク先行で行ききれなかったので、フォークを交えて制球を安定させたことで、6回以降にストレートがよくなりました」と、7回制だからこそできる投球の組み立て方があることを語ってくれた。
社会人野球の視点から考える「高校野球7イニング制」可否
では、社会人野球関係者は「高校野球の7回制導入検討」をどのように感じているのか?その是非を問うてみると、さまざまなの意見が聞かれた。
まずは監督側の意見から。
「8回9回に野球の醍醐味がある。JABA広島大会のように日本選手権予選前の調整要素が高い大会なら7回制もありだと思いますけど、全国大会への勝負がかかったところや、全国大会での7回制には抵抗があります」(JR西日本・田村 亮監督)という否定的見方が多くを占めた。
一方で、「希望は9回制ですけど」と前置きしながら、「現状、屋外であの暑さの甲子園では7回制でも仕方ない。もし9回制にするなら3回戦までは京セラドーム大阪、準々決勝からを甲子園にした方がいいですね」と、対案を提示したしたのはJFE西日本・内田 聡監督だ。
また、伯和ビクトリーズ・内山 孝起監督は7回制導入に前向き。「いいと思う。2~3回あるチャンスをしのぎあう緊迫感ある展開になると思います」と、新たな高校野球の誕生に期待をかけていた。
選手側の意見で興味深かったのは、九州国際大付時代に2年連続で夏の甲子園出場経験を持つ伯和ビクトリーズ・中山の「僕らのような社会人野球選手は7回制への対応力を持っているが、高校生は苦しいと思う」という意見。確かに技術・経験の上下幅が広い高校野球の特徴を鑑みれば、導入の可否判断や段階にはより慎重さが求められるだろう。
ここまで記してきたように、高校野球での7回制はあらゆる側面から検討が加えられるべきだ。7回制を試みるとしても夏の甲子園により状況が近く、かつ全国大会に直結しない夏の新人戦から導入するなど、健康管理と球児や高校野球にかかわる人々の想いの最大公約数に沿った議論が必要になるのではないだろうか。