今年のおいどんリーグの最終日。平和リース球場では慶応義塾大とソフトバンクが対戦した。アマチュア最高峰の大学チームと、育成選手を中心としたプロの対決に、晴天も重なって、多くの観客が訪れた。

 慶応大の9番・DHは丸田 湊斗外野手(2年・慶応)、ソフトバンクの5番・DHは佐倉 侠史朗内野手(九州国際大付)。どちらも2023年夏の甲子園を沸かせた元高校球児であり、卒業2年目のシーズンに向けての仕上がりを、鹿児島のおいどんリーグで腕試ししていた。

 丸田といえば、23年夏の甲子園決勝の仙台育英戦で史上初の先頭打者本塁打を放ったことで一躍脚光を浴びた。その後、平和リース球場であった秋の鹿児島国体初戦で仙台育英と再戦、入学前の昨年もおいどんリーグから参戦するなど、鹿児島や平和リース球場は何かと縁がある。

 「高3の春センバツ前のキャンプも鹿児島だったんですよ」と明かし、気が付けば3年連続で野球シーズンの開幕前は鹿児島で過ごしていることになる。「南国は花粉症がきつい。自分はそうじゃないと思っていたんですが…」と苦笑する。

 2月から約1カ月にわたる鹿児島合宿の集大成に、プロの投手と対戦したが、3打席立って中飛、四球、二飛と結果は出せなかった。「調子は上がってきていると思っていたが、カテゴリーが上のプロや社会人のボールには差し込まれてしまっている」と分析する。

 球速表示は130~140キロ台。同じぐらいの速さの球を投げる投手は大学生にもざらにいるが、プロや社会人はしっかり投げ切っている分、球質が上がっているのを感じる。「このぐらいのボールを打てるようにならないと」とこれから春のリーグ開幕前の課題が見えた。

 昨季は「試合には思っていた以上に出させてもらえたのに、結果が伴わなかった」と反省する。2年目は「出ていることと結果を一致させること」を大きな目標にしている。高校時代から何かと注目された選手だけに将来のプロ入り云々について聞かれることも多いが「僕はあまり先のことを考えないタイプ。プロの前にまずは目の前の大学野球をしっかりやり切りたい」と淡々と語っていた。

 この試合には同じ年の夏の甲子園に出場した選手が慶応大にもソフトバンクにもいる。「あまり他の選手のことは気にならない」と自分のことに集中するタイプの丸田が唯一「覚えています」といったのが、九州国際大付の佐倉だった。

 1年から中心打者だった佐倉も、1年秋の鹿児島であった九州大会に出場しており、平和リース球場でプレーしている。準々決勝の明豊(大分)戦、準決勝の長崎日大戦では本塁打も放っている。

 当時は、もっとどっしりとしたドカベンタイプのイメージがあったが、プロ1年目のシーズンを経てシャープになった印象があった。当時が105キロ、今は100キロ前後だが「だいぶ絞りましたよ」と振り返った。

 この日の3打席は三ゴロ、二ゴロ、四球。丸田と同じく結果は出せなかったが、「元気出していこう!」とベンチで立ち上がってチームメートを鼓舞したり、試合終了後は真っ先にベンチから出て、帰ってくるチームメートを迎えるなど「チームプレー」に徹している姿が印象に残った。

 「こういった数字に出ないことも評価の対象ですから」。プロとはいえ3軍の選手たちは何おいても個人としての結果を出し、首脳陣の目に留まって2軍、1軍に呼ばれるためのアピールが必要だ。試合では、時にチームの勝ち負けは度外視しても、個人としての結果を求めることもある。

 佐倉は自身の打撃結果はもちろんだが、「チームプレーができる」ことをアピールしたいと考えての行動だったと振り返る。その姿勢が顕著に表れたのが3打席目の四球だ。

 6回表無死一三塁の場面。4番・山本 恵大が同点適時打を放ち、結果を出してアピールするには絶好の場面だったが、じっくりボールを見極めて四球を選び、次の打者につないだ。結果的にこの回の攻撃でチームは4点を挙げて逆転に成功している。

 「もちろん、甘い球がきたら打つつもりでした」がしっかりボールを見て、一度もバットを振らなかった。「高1の頃なら、多少ボール球でも振っていくんでしょうけど」と苦笑する。

 育成3位で憧れのプロの世界に飛び込んだが「想像以上にレベルが高かった」。1軍はおろか、2軍にもお呼びがかからず、3軍の試合でもなかなか結果を出せない。「このレベルでも通用しないのか」と悩む日々だった。だからこそ2年目は持ち味のパワフルな打撃だけでなく、何かアピールできるものを一つでも多く作りたい。「チームプレーができる」ことも磨くべき選択肢になった。

 一塁側のカメラ席で撮影しながら観戦していると、取材パスを下げてカメラを構えている若い2人の女性と1人の男性がいた。てっきり数日前に取材した慶応スポーツ新聞会の学生かと思って、隣にいた女性に声を掛けると「ソフトバンクファンです」と答えた。

 彼女は東京、もう1人は福岡、男性は神奈川、それぞれ別のところからやってきているが、長年ソフトバンクが好きで3軍の試合などもチェックし、球場で会うことも多いので、いつの間にか顔見知りになったのだという。

 「おいどんリーグは3年続けて見に来ています」と彼女は言う。「推し」は3年目の飛田 悠成投手(金沢)。前日、指宿の球場であった試合で投げていた。あいにくの雨と寒さの中、しっかり撮ることはできたが「きのう投げたから、きょうは投げないかも。きょうみたいに天気の良い日に投げる姿が見たかったです」と苦笑する。

 会社員の佐藤賢太郎さんは「20年来のホークスファン」という。小学生の頃、現3軍監督の斉藤和巳が大エースとして投げていた頃も知っている。2軍や3軍の試合も追っかけているうちに社会人チームにも興味を持ち、都市対抗なども観戦するという。

 「こんな機会がなかったら鹿児島に来ることもなかったですね」と佐藤さん。チームや注目する選手を応援するのも楽しいが、小さな地方球場をめぐることも楽しみの一つだ。指宿市の新川床マリン球場、薩摩川内市の総合運動公園野球場…プロの1軍が試合をするような豪華で大きな球場も良いが、いろんな球場で観戦しているうちに、選手をより間近で見られる地方球場はそれ自体が観光目的になっていた。

 おいどんリーグでは、そういった希望を持っている一般客にも取材パスを発行し、観戦を楽しんでもらっている。「おいどんリーグはこれからもぜひ続けて欲しいです」と佐藤さんは期待していた。