ベースボールクライマーとしての指導

 倉野は自身を「ベースボールクライマー」と表現する。

「私は名選手や名監督ではありません。でも、教員として、教えることのプロでありたい。それが私の役割です」

彼の指導哲学は、選手の個性を尊重することにある。

「全ての選手が同じ方法で成功するわけではありません。同じ山を登るにしても、天候やルートが異なるように、それぞれの選手に合った方法を模索しなければならないのです。雪山を登るのは、自分との対話です」

その中で、自分の弱さや恐怖を知り、それを克服することが醍醐味だという。

また、雪山登山で感じる達成感は格別だ。

「頂上に立ったときの景色は、一人で挑んだからこそ得られるものです。それは、選手が一人で困難を乗り越えたときの表情に似ています」

倉野が雪山で得た経験は、野球指導にも影響を与えている。選手に寄り添い、適切なアドバイスを与えること、そして迷いながらも信念を持って決断する姿勢。それら雪山で経験することと非常に似ている。

「野球の試合と雪山の登山は似ています。選んだルートが正しいかどうかは最後まで分からない。でも、最善だと思った道を信じて進む。それが野球にも必要な姿勢です」

倉野は、これからも雪山に挑む意志を持ち続ける。

「私は特別な存在ではありません。ただ、新しいことに挑戦し、学び続けたいだけです」と語る言葉には、指導者としての責任感と人間としての謙虚さが滲んでいる。

定年を迎え肩書は教員から監督へと変わった。指導歴は40年を超えてもなお変化に柔軟に対応し学ぶ姿勢を崩さない。これこそがベースボールクライマーの真髄なのかもしれない。