「1人、別格だな...」
高校時代の実力者が揃う青山学院大で、1人だけ別次元のバッティングだった。
捉えた時の打球の鋭さ、飛距離、全てが他の選手と一味違った。極めつけは両翼95m、センター120mのグラウンドを越えていくような特大のホームラン。グラウンドにいた選手たちも思わず見入ってしまうのは、もはや仕方なかった。
2024年のドラフトで1位候補とも称される西川 史礁外野手(龍谷大平安出身)は、それほどのバッティングだった。
練習では10割を目指してほしい!
取材日はリーグ戦直前のタイミングだったが、先日神戸で開催された高校日本代表との壮行試合が終わったばかりでもあった。その試合について触れると、「本当に難しいと思うんですが、よく振れている」と、高校野球のレベルの高さに驚いていた。
2024年より新基準バットが導入されたことを受けて、木製バットを使う選手が増加。夏の甲子園では柵越えのホームランを打つ選手も出た。「高校時代、木製バットでスタンドまで運べるかというと自信がなかったので、それが出たのは本当に凄い」と、ドラ1候補・西川は目を丸くしながら話すと、自身の高校時代を振り返る。
「高校時代は使っても、素振りやティー打撃くらい。それ以外は基本的に金属でしたので、今振り返っても、木製バットを扱う技術は低くて、全然適応出来ていませんでした」
練習で使っていたのも竹バットだったこともあり、本格的に木製バットを使い始めたのは引退してから。それから準備をキチンとやってきたが、大学野球の壁にぶつかった。
「バットを思うように使うだけの体の強さがありませんでしたし、大学レベルのピッチャーについていけていませんでした。だから入学してすぐは全然対応できず、打てませんでした。ただその後、山田 拓也さん(現東芝)が自主練習に誘ってくれて、質問しながらバッティングを1から練習しました。おかげで夏のオープン戦で結果が出るようになりました」
いまもなお継続しているメニューもあれば、「合わないと思ったら、違う方法を考えます」と取捨選択をしながら練習メニューを組んでいるそうだが、「バッティングの基本は変わらない」と話すと、自身の現在のバッティングについて語る。
「片手でティーバッティングをした後、ノーステップで打つんですけど、このときにヘッドを利かせて、しっかりとヘッドを走らせたスイングで強く打ち返すようにしています。
自分のなかでティー打撃は、1球ごとにしっかり打って『今日はバット振れているのか』コンディションを確認するようにやっているんです。だから、ティー打撃をするときは、ヘッドを立てた状態で打つことを体に覚えさせたり、状態を確認したりするようにしています」
ノーステップになると、下半身の力をほとんど使えない。そんな状況だからこそ、強い打球を打てるか。そのポイントがヘッドというわけだが、さらに聞いていくと、ドラ1候補のこだわりが見えてきた。
「ヘッドが寝た状態でミートしてしまうと、速球に対して負けてしまい、捉えてもファウルになってしまいます。これは大学に進学して、一番気づかされたことです。だからリストをしっかりと使って、ヘッドを立てた状態で捉えれば、インパクトの瞬間に負けないし、いいスピンで飛ばすことができます」
もちろん、「詰まったら飛ばないので、芯で捉えられるか」ということは気を付けているそうだが、重要視するのはヘッドを立てられるか。ここまで西川は強く訴えるが、「下半身を使って打つとかもありますけど」と、全身を使ったスイングすることの大切さを忘れない。
「ガチガチだと動かないので、余裕を持たせる意味でも足を上げて、軸足にきちんと体重を乗せます。そのうえで、しっかりとボールに向かっていくようにしています。
もちろん、突っ込むわけではないんですけど、軸足に重心を乗せたままスイングをしても、あまりバットを振れないので、そういう意識で足を使います。そのうえでヘッドを立てたままミート。最後はフォロースイングを大きくする。それを自分は考えてやっています」
ここまで考え詰めたうえで、西川は常に自分の形で振り続ける。これまで何本もバットを折ってしまったそうだが、「しっかりとスイングができた」と捉え、恐れることなく強振し続けてきた。この姿勢があるから、戦国東都で強打者として恐れられているのだろう。
そんな西川は、高校球児に向けて、こんなメッセージを送った。
「練習で10割を目指してほしいです。やっぱり試合になると、3割打てたら良い打者なので、練習では10割を打てるように意識した方が良いと思います。そこで考えたり、意識したりすることを、試合でどれだけ近づけられるようにプレーできるか。そういった考えでやることが、一番良いのかなって思います」
2024年の大学球界の顔・西川だが、決して最初からうまくいっていたわけではなく、試行錯誤を続けた先に、木製バットでも打てる技術を身につけた。その歩みは、木製バットを使っている、これから使おうとしている球児の道しるべになるだろう。