腰回りってやっぱり大切だ
野球というスポーツは、回転動作の多い競技だとつくづく思う。投げる、打つという動作は、股関節や腰を鋭く回転させて、剛速球を投げたり、豪快なスイングをしたりする動きだ。
だから、腰回りの負担は多い。
チームへの取材に行くと、「腰椎分離症」と呼ばれるケガに悩まされる選手はよく見かける。また私の現役時代を振り返っても、腰に痛みを抱えていた同級生が、ベンチ入りを逃してしまったというケースもあった。
その後、ケガに苦しんだ同級生は腰回りにサポーターであったり、クッション付きのベルトを巻いたりしながら、再発防止に努めていた。ときには、私が理学療法士の見様見真似でマッサージをしたこともあった。
10年以上前の過去の出来事だが、今にして思えば、「なんて適当なことを…」と考えてしまう。だが、当時は歩くことも苦労している仲間の様子を思い出すと、「腰のケガは本当に大変だな」と重要性を再認識させられる。
パフォーマンス、そしてコンディションの観点でも、腰回りが野球に及ぼす影響は大きいといっていいだろう。
これまでにないフィット感へ、挑んだ2つのゴム
そんなパフォーマンスとコンディションの両面にアプローチした商品が発売されたという。スポーツメーカー・ミズノから登場した「EZ GAIN(イージーゲイン)」というベルトである。
今回の企画担当者である羽柴翔太さんによると、前回新発売されたベルトから10数年ぶりだという。ミズノ社にとっても久しぶりとなる新ベルト・イージーゲイン。羽柴さんいわく、「どんな動きに対しても邪魔にならない伸縮性によるフィット感がある」ことが強みだと説明する。
ただフィット感と言われても、どうやって実現させているのか。
これまでのミズノのベルトを調べてみると、真っすぐではなくて少し曲がっている。または、腰にあたる部分にはクッション、凹凸(おうとつ)にさせることでフィット感を高めているような商品が多く見られる。
今回、イージーゲインを開発するにあたり、「アイディアレベルでは考えていました」と、やはり過去の実績を生かしたモノづくりを進めてきた。でも、今回は採用せず、新たな挑戦を決断した。
「ベルトは誰もが使いますし、グラブやバット、スパイクのように、アパレルの中では最もギアに近い大事なアイテムだと思っています。だから、パフォーマンスアップのギアという位置づけで、フィット感を高めるために、伸縮性に優れたベルトの開発を進めました。そのベルトには、サポーターでも使っているゴムが2種類採用されています」(羽柴さん)
硬さと柔らかさで実現させたフィット感
イージーゲインの開発担当として、力を合わせた酒井隆太さんのアドバイスで、羽柴さんはサポーターにも使われているゴムを採用しているという。
これまでサポーターなどの開発にも携わった実績がある酒井さんだからこその意見だったというが、通常のゴムに比べて、サポーターに使われるゴムは、耐久性と伸縮性に優れているのが特長だ。そんなゴムを2つ使い分けているというのだ。
「外側は、肌触りが良いようなゴム素材を採用しています。そのかわりに内側は反発力のある、コシのあるゴム素材を使いました。
というのも、ベルト全体が柔らかいと損なわれてしまうので、頼りない商品になってしまいます。あと、やっぱり適度に締める硬さがあることで、より良いフィット感が生まれると考えています」(羽柴さん)
羽柴さんが話すように、柔らかすぎると体を固定できず、安定感が欠ける。加えて可動域が広がりすぎる分、力は逃げていく。パフォーマンスアップとしての機能は不十分だ。
かといってガチガチに固定をすれば、安定感があって力のロスも少ない。ただ可動域は狭く、これまでのベルト同様に動きにくさは生まれる。
この中間を目指して、羽柴さんは2種類のゴム素材を採用することを決めた。が、羽柴さんの工夫は素材だけに止まらない。
「柔らかければいいわけではなく、適度なキックバックも大事だと思っていたので、縫製をする段階で、少し商品を伸ばした状態で作るようにしました。
この作業が本当に大変で、どれくらいの力加減で引っ張るのか。品質管理はもちろんですが、反発力や伸縮性のバランスを両立させるために、色々試して、結果的に10本近くはテストを実施しました。
ただ1つの素材ではなく、2つの素材を組み合わせたからこそ実現できた強度、フィット感だと思っています」(羽柴さん)
自身と同じように悩む球児へ 「上手くなりたい、勝ちたい球児に使ってほしい」
これまでも、ミズノでは伸縮性のあるベルトは販売したことがあるものの、「その時よりもフィット感の高い商品になっている」とイージーゲインに対して、羽柴さんは自信を持っている。
その証拠に、ミズノ独自の調査では、球速が0.8キロアップ。股関節の屈曲性がおよそ6%向上したことで可動域を適度に広げられるため、全身のパワーを使って投げられているからこその結果だろう。
実際にミズノの契約選手たちからは「動きを支えている」や、「自分の体に合ってくる」という声。さらには「力が発揮しやすい感覚がある」、「(腰の)痛みが軽減されている」といったような声が出ているという。パフォーマンスアップ、さらにはサポーターの両面での効果は、確実にあるようだ。
こうした声に羽柴さんも「(いい意味で)期待を裏切られた」と話しつつ、「早く選手たちに使ってもらえたら嬉しいです」と、少し表情が緩む。
それもそのはず。羽柴さん自身、現役時代は内野手を務めていたが、腰の痛みに悩まされていた元球児の1人。取材中も、「まだ痛みは残っていますよ」と腰との戦いは続いているようだった。だからこそ、「腰を気にすることなくプレー出来たら嬉しいです」と自分のことと重ねながら、同じように悩む球児たちにメッセージを送る。
簡単・手軽(イージー)に、力を獲得(ゲイン)する。異次元のフィット感、着け心地、そしてパフォーマンスを発揮する。そのためのアイテムがイージーゲインである。「上手くなりたい、勝ちたい球児に使ってほしい」と羽柴さんはメッセージを送る。
どうしても野球用品というと、思い浮かぶのはグラブ、バット、スパイクだ。自身のプレーに直接的に関わるアイテムなだけに、フォーカスしがちなのは仕方ない。ただこのイージーゲイン、自身を支える縁の下の力持ちとして、見えないところで力を発揮してくれるはずだ。
オンラインショップ、ミズノ直営店のみの販売とのことだが、気になる球児は是非調べたり、店頭に足を運んだりして、その伸縮性とフィット感を体験して欲しい。
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