試合レポート

前橋育英vs延岡学園

2013.08.23

前橋育英の初出場初優勝を紐解く

 観客動員は上々だったと甲子園球場の関係者に聞いた。
 毎日、甲子園球場に来てスタンドを見ていれば納得できる。常識的に考えれば優勝経験(春夏含む)のある浦和学院日大三が初戦で敗れ、仙台育英済美大阪桐蔭横浜という名だたる名門校も準々決勝を前に姿を消している。
 それでいて観客動員が好調というのは、上位進出を果たした鳴門花巻東日大山形前橋育英富山第一延岡学園など新鮮な顔ぶれに高校野球ファンがシンパシーを感じたということである。

 3回戦は8試合中4試合が8点差以上という荒れたゲームになり観客動員を不安視したが、準々決勝は4試合すべてが1点差という白熱した試合になり、その流れは準決勝、決勝まで引き継がれた。

 決勝の先発は、延岡学園が前日に公式戦初先発・初完封を飾った横瀬貴広(3年・左左・176/80)、前橋育英が準決勝まで自責点0を継続している高橋光成(2年・右右・188/82)という絶好調同士。
 前日の観戦記で横瀬を「捕手の送球を受け取ってからモーションを起こすまでの投球タイムが4秒台」と紹介したが、この決勝戦ではさらに間合いが短くなり、序盤は2~5秒台が多く、ときには1.28秒という規格外の速いタイムもあった。

 かつて中日で最多勝を獲得したことのある松本幸行の専売特許が早投げで、これを一部で「キャッチボール投法」と呼んでいたが、現在その名称が最も相応しいのは横瀬だろう。捕手の返球を受け取った直後、すぐプレートに足をかけてサインに頷いているのだから、打者は打席内で考える余裕がない。ただ、ハイテンポはもちろん有効なのだが、1~2秒台はさすがに早すぎる。打者以上に自分の気持ちを急き立てているように見えた。
 得点を先に挙げたのは延岡学園である。4回裏、2安打と1四球でニ死満塁のチャンスを作り、準々決勝の富山第一戦で“サヨナラ遊撃ゴロ“(併殺を焦った二塁手が一塁に悪送球)を放った薄田凌(2年・二塁手・右左・170/67)が準々決勝を再現するような三塁安打+三塁の悪送球で2点を奪い、さらに四球と横瀬の右前打で3点を先制した。


 ただ、横瀬も前述したように危なっかしい。凌いではいるが1回は満塁、3回は一、三塁というピンチを迎えているのだ。
 前橋育英打線がようやく得点を記録したのは5回で、先頭打者・8番田村駿人(3年・左翼手・右右・175/73)の左中間スタンドへのソロホームランが呼び水になり、その後2つの失策と2四球、1安打で同点に追いついている。
 もっとも、前橋育英は拙攻の繰り返しだった。3点を奪った5回はさらにニ死満塁のチャンスを迎えているが追加点を加えられず、6回は2死二塁の場面で遊撃手のエラーが出て一、三塁のチャンスを迎えたと思ったが、三進した走者がオーバーランして憤死するなど拙攻を繰り返し、結果的には12個の残塁の山を築いている。

 決勝の1点が前橋育英側に記録されたのは7回。先頭の3番土谷恵介(3年・遊撃手・右左・174/72)が三塁打で出塁し、続く4番荒井海斗(3年・三塁手・右右・176/75)が左前に安打を放ち、これが決勝点になっている。

 野手のヒーローは土谷だろう。3打数3安打2四球のバッティングはもちろん、遊撃守備で2度ピンチを未然に防いでいる。2回に田中祐樹(3年・一塁手・右左・168/66)が放った三遊間への深いゴロを好捕したのちワンバウンド送球で間一髪のタイミングでアウトを取り、4回には松元聖也(3年・遊撃手・右左・177/70)のセンターへ抜けようかという鋭い打球を軽快にさばいてアウトにしている。台湾で行われる第26回IBAF18Uワールドカップに参加する高校日本代表チームがこの日発表されたが、土谷の好守のレベルなら選ばれてもよかったのにと思った。

 投手では自責点2を記録したが前橋育英高橋光成がよかった。ストレートは130キロ台後半がほとんどで速さはないが、縦・横2種類のスライダーにフォークボールが冴えて、安打が出たのは4、5、9回の3イニングだけで、1、2、3、6、7、8回はノーヒットに抑えている。
 高校2年生でいながらマウンドを支配する落ち着き、風格があり、1回の投球前には丁寧にステップ幅を歩測する姿があった。前述のIBAF18Uワールドカップには松井裕樹桐光学園)などと全日本メンバーに選出され、いよいよスター選手としてのスタートを切ることになる。

(文=小関順二)

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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