試合レポート

熊谷商の143キロ右腕・中村謙吾の夏は初戦で終わる。指揮官は力投続けたエースを称える【24年夏・埼玉大会】

2024.07.16


中村謙吾(熊谷商)

<第106回第106回全国高校野球選手権埼玉大会:武蔵越生1-0熊谷商(延長10回)>13日◇2回戦◇県営大宮球場

【トーナメント表】埼玉大会  15日までの試合結果

県営大宮球場の第3試合は、MAX143km右腕・中村 謙吾(3年)擁するCシード・熊谷商 vs 武蔵越生

先発は熊谷商がその中村と武蔵越生大野 敦士(3年)、埼玉西武ライオンズジュニアユース出身の両エースが登板し試合が始まる。

この日序盤、熊谷商・中村は苦しんだ。直球が高く浮き、ボールが先行。さらに武蔵越生打線が5回100球を目処に待球作戦をとったので球数が嵩む。

一方の大野はホップ成分の多い直球を武器に高低をうまく使い、熊谷商打線を封じる。

最初にチャンスを掴んだのは武蔵越生

4回裏、この回先頭の加藤 匠悟(3年)がショートゴロエラーで出塁すると、続く浅見 佳汰(3年)もレフト前ヒットを放ち無死一、二塁とする。5番・加藤 蔵大(2年)を迎え、熊谷商内野陣はブルドックなどでチャージをかける。武蔵越生ベンチは打順が下位に周る所ということもあり5番・加藤 蔵に強攻をさせるが、加藤 蔵は三振に倒れると後続も倒れ無得点に終わる。

すると5回表、熊谷商にもチャンスが巡る。この回先頭の中村謙が四球で出塁すると、続く大久保 柊摩(3年)の所で熊谷商ベンチもエンドランを仕掛ける。これが決まり無死一、二塁とする。さらに8番・菅野 航輝(3年)は送りバントをしようとするが、二走・中村謙の離塁が大きくキャッチャーの牽制を受ける。その際二走・中村謙は咄嗟に三塁を奪うと、その間に一走・大久保柊も二塁へ進み無死二、三塁と絶好の先制機を迎える。だが、8番・菅野は内野ゴロで凡退すると、続く脇坂 悠斗(3年)は一死一、三塁から最初セーフティスクイズを試みる。その際、武蔵越生内野陣はサードが前へチャージしショートが三塁へ入るサインプレーを見せる。だが、その際二塁が空き一走・菅野が二塁へと進み一死二、三塁となる。すると熊谷商ベンチはスクイズのサインを出すが脇坂は空振りし失敗する。その後の打席でも凡退し無得点に終わる。

結局、熊谷商・中村謙は5回で90球を投じる。

武蔵越生は6回裏にも一死から4番・浅見がレフト前ヒットを放ち出塁すると、続く加藤蔵もライト前ヒットを放つ。さらに6番・永井 柊(2年)も四球を選び一死満塁とするが、後続が連続三振に倒れ無得点に終わる。

その後は熊谷商・中村謙、武蔵越生・大野両投手の好投により試合は両校無得点のまま試合は延長タイブレークへと進む。

10回表、熊谷商は無死一、二塁からこの回先頭の中村謙は送りバントの構えも送れず三振に倒れると、後続も凡退し無得点で終わる。

するとその裏、無死一、二塁から先頭の矢澤 祐太(3年)がライト前ヒットを放ち無死満塁とすると、続く磯はセンターへのやや浅いフライを放つ。
「行けと言われたんですが、足が攣っていたので(笑)」(大野)と、三塁コーチャーのGOがかかり、万全ではない三走・大野が本塁突入するが、大野は本塁憤死。二死一、二塁となりチャンスが萎んだかと思われた。だが、3番・加藤匠が四球を選び再度満塁とすると、武蔵越生ベンチは代打・八巻を送る。フルカウントから右中間へサヨナラ打を放つ。

武蔵越生が1対0でCシード・熊谷商を下し初戦を突破した。好投手・中村謙の夏が終わった。

まずは武蔵越生だが、「きつかった(笑)。中村君は本当に良い投手。敬意を表したい。高校生でこんな投手と久々に当たった。9人で束になってかかっていっても崩れない。中学時代は中村君の方が上だったが、大野には試合で勝った方が良い投手だと伝えた。大野も強くなった。今春までは単調になる所があったが、強気な所と変化で使い分けられるようになった。矢澤が捕手になってからチームがまとまった。新チーム結成当初は下級生が7人入っていてそこを矢澤が我慢してチームを引っ張った。10回矢澤はもちろん強攻で。うちは10回裏しかなかった。確かに10回裏勝負も三走・大野を本塁へ突入させたのはびっくりしたが、代打は一番泥臭い子を使ってみるかなって。粘り強さと勝負しようとずっと言ってきたができなくて。ここへ来てやっとそれができるようになった」(泉名監督)と、選手達の成長に目を細めた。

大野も、「バチバチで。1点を取らせないぞと。絶好調という程ではなかったんですが、初回投げてみていけるぞと。途中で疲れから頭が突っ込んでいたのでフォームを修正した。5回はしんどかった。ヤバいと思った。ただ今春は冷静になれなかったので、その反省を活かして冷静でいようと。ちゃんと周りを見て、打者だけにならないように。タイブレークは本来2点OKなんですが相手投手も良いので2点取れると言い切れないので1点でも少なく。今春タイブレークで負けたので次は負けないぞと。春はややネガティブになっていたが今回は行くぞとなっていた。厳しい練習をみんなで乗り越えて団結力はある」(大野)と、チームの手応えを感じている。Cシードを撃破し今大会の台風の目になれるかは次戦にかかる。

一方の熊谷商は、「確かに立ち上がり上ずっていたんですが、彼は立て直すことができるので。中盤からは修正し良く投げた。相手の待球作戦もあり球数は増えたが、気力は充実していて、とても代えられる状況ではありませんでした。むしろ打線が相手投手の高低の緩急に苦戦した。5回のチャンスは1点で良かったんだが…タイブレークは中村謙が最小失点で切り抜ける可能性があるので1点を取る作戦展開をしたんですが…でも選手はよくやってくれたと思う。シードのプレッシャーはないと言えば嘘になるが、それよりも初戦の硬さはあったかな。中村謙はエースで主将と負担もかけてきたが期待に応えてくれた。彼らしく最後まで投げ切ってくれた」(新井監督)と、悔しさを滲ませつつも、主将に最大級の賛辞を贈る。

「組み合わせが決まってLINEでやり取りした。エース対決になるだろうと話していて、あいつにだけは負けたくないと思っていたが、一枚上手だった。自分と大野の投手戦になって、野手のみんなも1点もぎ取ろうとして。自分が打たれなければ負けはなかったのに打たれてしまって。主将としてもエースとしても不甲斐ない。序盤緊張もあってやや上ずったんですけど、途中捕手の岡安が声をかけてくれて何とかまとめられた。ボール自体は悪くなかったので自分の弱さというか力負け。スタミナに関しては1.5km走、筋持久力という走りながらどれだけ筋力が持つかというトレーニングはできた。確かにエースで主将でしたが、周りが支えてくれたので一人の”中村謙吾”として活動できた。まだまだ終わらせたくなかった。ここでの解散は悔しい。最後は一番練習してきた外角低めで渾身の一球。悔いはないがまた自分で終わるのかと。昨秋、今春初戦、そして今回とまたこの方向かと。”中村謙吾”を打ったということで自信を持って欲しい。Cシード・熊谷商を倒したことを自信に思ってくれたら。自分達の思いも持って戦って欲しい」と、涙ながらに語った中村謙。10回178球をを投げ10奪三振1失点も最後力尽きた。彼は責められない。今大会屈指の好投手が初戦で散った。

この記事の執筆者: 南 英博

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