試合レポート

大阪桐蔭vs門真西

2012.07.23

王者に立ち向かった異色の左腕

試合終了後の拍手は門真西へと向けられていた。

2対6。
最終スコアは空いたが、王者に悠然と立ち向かった左腕がこの日の主役だった。

序盤に点を取られると嫌なムードになるので踏ん張っていこうと思っていた」。

 
門真西のエース・岩佐稜平―――。
1年夏の大会後に、入部してきたという異色の左腕である。

だが、その知名度は、敵将・大阪桐蔭の西谷浩一監督も知っていたと言うほどだから、ただものではない。
当然、迎え入れた方の門真西・西山均監督も気になる存在だったという。
「評判は知っていました。ただ、野球はやらないつもりでうちの学校に入ってきたとは聞いていました。一応、体験入部には来たんですけどね。その時も、『やる気はありません』見たいな態度でしたね。僕の方からは、一度、誘ったくらいで、あまり強くは誘いませんでした。というのも、その方がそのうち野球がやりたくなるだろうって思ったからです」

指揮官の狙いは当たる。夏を終えると、本当に入ってきたのだ。

その理由を、岩佐本人は、こう語る。
「2つ上に兄貴がいるのですが、僕が野球をやるきっかけになった人なんですけど、その兄の最後の大会を見に行って刺激を受けた。兄は外野から好返球で2度3度、刺していて、そんな姿を見て、また野球をやりたいと思ったんです」

入部すると、評判通りの投手だった。
左腕からのストレートがキレ、高めほど威力を増す。
本人は「得意じゃない」というが、チェンジアップやスライダーのキレ味も見事だった。
持っている才能をいかんなく発揮していた。

 
岩佐にとってプラスだったのは、門真西が奔放なスタイルのチームだったことだ。
彼本人もそうだが、髪はほとんどの選手が長めに伸ばしているし、高校野球特有の窮屈感はない。ピッチャーの投げ込みも、強制しないそうだ。

西山監督は言う。
「野手の練習は決めてやりますけど、ピッチャーに関しては言わないですね。特に、投げ込みは本人任せています。だから、うちでは投げ込みはしません。投げ込みは自分がやりたいと思ってやらないと効果がありませんから。彼らにとっての投げ込みと言えば、週1回の練習試合。一度、練習試合で9回投げて、岩佐がへろへろになったことがあるのですが、『それが投げ込みっていうんや。普通のチームはそれをやっている』という話をしたことがあります」

とはいえ、岩佐は奔放なだけではない。自分で考えるだけの余裕はある。
例えば、ピッチングでもリードする捕手を信頼しているが、やってはいけないピッチングは熟知している。
「僕の球は130キロ程度なので、アウトコースでは抑えられない。どれだけインコースに投げられるかだと思っていました」と大阪桐蔭対策を立てていたという。


試合は立ち上がりにエラー絡みの1点を先制されたが、その後、自身の適時打もあって、一時は逆転。しかし、3回裏に森友哉(2年)に同点の一発を浴びた。4回裏には、またも失策が絡みで逆転を許した。それでも、大きく崩れることはなく、大阪桐蔭打線に対峙した。

「エラーをされても抑えれば点は入らないんで、気持ちは切り替えていました。僕は抜くところは抜いて投げるタイプのピッチャーなのですが、大阪桐蔭打線は抜くところがなかった。インコースを投げないといけないと思いましたが、ここという時に甘く入ってしまったのが打たれた原因です」と唇をかんだ。

8回8安打6失点。
とはいえ、自責点3。見事な数字といえるだろう。
「良いバッターと対戦するのが好きなんで、今日は楽しかったです。ピンチでストレートを投げて抑えた時は嬉しかった。大阪桐蔭に自分の力が通用するか試したかった。通用しませんでしたけど、でも、力は出し切ったので、悔いはないです」

自由奔放なスタイルで悠然と王者に立ち向かった異色の左腕。
大会屈指の好投手として、記憶に残るピッチャーだった。 

(文=氏原英明)

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

関連記事

応援メッセージを投稿

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

RANKING

人気記事

2024.06.19

夏の兵庫大会のヒーロー候補21人!報徳学園・今朝丸、神戸弘陵・村上の「151キロ右腕二人」が筆頭格!投打にタレント揃いの東洋大姫路にも注目

2024.06.19

【山梨】20日に抽選会!県内10連勝の山梨学院が軸、日大明誠、駿台甲府が追う<夏の甲子園県大会組み合わせ>

2024.06.19

【福島】日大東北が延長10回サヨナラ勝ちで優勝、全日程を終了<春季支部選手権大会>

2024.06.19

【熊本】20日に抽選会!熊本国府のほか、文徳、九州学院、専大熊本玉名にもチャンス<夏の甲子園県大会組み合わせ>

2024.06.19

ノーシード大分商が初戦勝てばシード大分舞鶴と対戦、大分初の夏4連覇を狙う明豊は初戦で148キロ右腕と対戦も【2024夏の甲子園】

2024.06.14

【福岡】九州国際大付は小倉商、東海大福岡は小倉南、春日は大川樟風、福岡大大濠は輝翔館と対戦【2024夏の甲子園】

2024.06.14

15日に夏の甲子園抽選会!超激戦区・愛知が誇る逸材を一挙紹介!素材の宝庫・愛工大名電、中京大中京の149キロ右腕…そしてモイセエフはどこまで成長したのか?今年も全国クラスの逸材が点在!【注目選手リスト】

2024.06.16

大阪桐蔭、山梨学院、慶應義塾…強豪校・名門校の昨年度卒業生はどの進路を歩んだのか?【卒業生進路一覧】

2024.06.18

今夏埼玉の注目野手18人! ドラフト1位級の花咲徳栄スラッガーを筆頭に浦和学院・昌平らに大型選手が揃う【埼玉注目野手リスト】

2024.06.14

慶應&大阪桐蔭が四国の5チームに伝えた「全国で勝つための方法」とは!? 香川・徳島招待試合がもたらした財産

2024.05.21

【大学野球部24年度新入生一覧】甲子園のスター、ドラフト候補、プロを選ばなかった高校日本代表はどの大学に入った?

2024.05.21

【24年夏全国地方大会シード校一覧】現在33地区が決定、岩手では花巻東、秋田では横手清陵などがシードを獲得〈5月20日〉

2024.05.31

【24年夏全国地方大会シード校一覧】現在34地区が決定、佐賀では佐賀北、唐津商、有田工、龍谷がシードに

2024.05.25

首都2部優勝の武蔵大の新入生に浦和学院の大型左腕、左の強打者、昌平の主軸打者など埼玉の強豪校の逸材が入部!

2024.05.24

春季近畿大会注目選手17人! 智辯和歌山の大型右腕、大阪学院大高の全国トップレベル遊撃手、天理のスラッガーコンビら逸材がこぞって出場!