刈谷vs岩津
190センチのアンダースローが見せた成長
充実感からくる清々しい顔だった。3年前の準優勝校・刈谷を相手に、許した失点は4。敗れはしたが、エース山田将は試合後「(負けたのは)実力が足らなかったから。でも持っているものは全て出せた」と笑顔もまじえながら爽やかに話した。
山田将は身長190センチでアンダースローという超個性派だ。テークバックで長い腕が高々と上がったかと思えば、そこから一転、下から球を押し込んでくる。他にはない特徴を持つだけに、打者にとっては打ちづらい。中学ではサイドスローだったが目立った実績は残せず、高校でさらに腕を下げた。2年春に春季県大会でベスト16まで勝ち進み、それまでの過去約10年にわたり夏の大会初戦敗退続きの岩津を一躍、注目校に押し上げた。
筆者は2年春(参照:2011年4月29日)に山田将のピッチングを初めて見たが、当時に比べスピードも制球もグンとアップしていた。「打ちにくいと言われるが、球が遅くては意味がない」と冬場に下半身強化に取り組んだ成果は一目瞭然で、下手投げとしてはなかなかの130キロ近い球速表示をマーク。特に良かったのは左打者の内側を突くストレートだ。「外角のボールには(相手打線は)対応してくる。内を突くこと」(丘友嗣監督)がこの日のテーマだったが、そのボールが最も光った。ピンチでもストレートを投げ込み、三振を奪って雄叫びをあげたシーンも度々。昨夏は自身のフィールディングでのミスが響いて負けたが、ここも改善されていた。
ハートの面でも成長は著しい。「練習試合で下手なピッチングをすると、チームメイトからヤジが飛ばされ『ボロクソ』に叱咤される。それが原因で仲間とぶつかり合うこともあったが、精神的に鍛えられた」と本人は振り返る。取材をする立場から見ても、下級生時は話していてもまだ自信がなさそうだったが、姿も振る舞いも今や別人のように映る。なにより、高校ラストゲームになってしまったが悔いはない様子で、取材陣の質問に自分の言葉で生き生きと答えてくれたその姿から、充実した野球部生活を送ってきたことが手に取るように分かった。
丘監督も「ここまでケガもなく成長してくれた。3年生になった頃は一時期、いろいろと知ってしまった(=『怖いもの知らず』ではなくなった)ことで打たれることもあったが、最近は吹っ切れて大胆に攻められるようになった。立派だった」と山田将をたたえた。超長身のアンダースローというオンリーワンな魅力を、今後もっともっと磨いてほしい選手だ。
岩津はチームとしても健闘した。「(入学当初は)性格にムラがある子もいる中で、技術的には大したことなくても、人間として成長してくれた。ピンチでも逃げずに立ち向かい、よく凌いでくれた。(試合後の今は)スッキリした気持ちです」とは丘監督の談。今年も例年同様、1年生が入部するまでは部員数がベンチ入り定数の20名に満たない少人数チームだったが、指導力確かな丘監督のもと、「ドカベン」型捕手の山田亮二(3年)や左投げのセカンド・浜井一騎(3年)など、長身エース以外にも個性豊かなメンバーがしっかりとした野球を繰り広げた。
一方の勝った刈谷はエース大川立樹(3年)が好投し、5回までは相手打線にヒットを許さず試合の流れを呼び寄せた。守備もノーエラーでリズムよく試合を運んだ。2回表に二塁打を放った6番鈴木富敬(3年)が8番加藤慎平(2年)のスクイズで本塁に還り先制すると、7回表には二塁打の手嶋伸午(2年)が盗塁と相手のミスで2点目のホームを踏んだ。
(文=尾関雄一朗)