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平均身長169センチの公立校が快進撃 有田工は佐賀県勢22年ぶりの初戦突破なるか

2022.03.09

「選抜出場校で、こんなに小さいチームはないでしょう。まさか、ここまで勝ち上がれるとは思っていませんでしたし、それは選手たちも同じだと思います」

 長崎県との県境、西松浦郡有田町にある有田工。町は日本の伝統工芸品の1つ、有田焼の産地として知られ、学校にも陶芸を学ぶことができるセラミック科がある。 野球部は2013年夏に、エースの古川 侑利投手(日本ハム)を擁して春夏通じて初の甲子園出場を果たしたことでその名を広めたが、 昨秋も九州地区大会ベスト4と快進撃を見せた。

 初の選抜大会出場をつかみ、学校としても2度目の甲子園出場の快挙をつかんだが、梅崎信司監督は苦笑いを浮かべてチームの戦力を冷静に分析する。

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「失うものはない」無欲で臨んだ九州大会

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選抜初出場を掴んだ有田工

「実力だけを見れば、佐賀県内でも決して上の方ではありませんし、みんな本当に小柄です。ウチがここまで勝ち上がれたのは、正直、運の要素も大きかったと思います。今回の県大会はシード制がなく、前評判の高かったチームが一つの山に固まり、また佐賀大会が終わってからも九州大会まで間が1ヶ月空きました。しっかりと対策する時間が作れ、またエースの塚本 侑弥(3年)にもトレーニングをさせることができ、九州大会での好投に繋がりました」

 昨秋にベンチ入りした選手の平均身長は169.9センチ。屈強な体格を持つ選手が集う甲子園ではお世辞にも大きいとは言えず、日本人成人男性の平均身長である172センチも下回る。

 またチーム本塁打は0本で、チーム打率も出場校中24位の.300。エースの塚本も常時は130キロにも満たない程と、数字だけを見れば梅崎監督の言葉も納得せざるを得ない。

 身長180センチを超える大型選手やタレント性を持ったスター選手もいない、いわば普通の公立高校である有田工だが、そんな中でも九州大会ベスト4に進出し、実力でセンバツ出場を勝ち取った要因には、選手たちの野球への真っ直ぐな姿勢があると梅崎監督は語る。

「うちのチームは地元の中学校から集まった選手ばかりで、みんな本当に素直です。特に今年はみんな本当に仲が良くて、九州大会に出るときも失うものは何もないと、前向きに望むことができていました。彼らもまさかここまで勝ち上がれると思ってなかったと思います」

 選手のほとんどは中学時代は学校の軟式野球部に所属しており、目立つような実績もなかったという。また小学校時代からのチームメイトだという選手も数人おり、まさしく地元の子が中心となって構成されたチームだ。

 主将の上原(かんばる)風雅捕手(3年)も、一番の持ち味はチームワークであると胸を張る。

「上下関係がないと言ったら悪く聞こえるかもしれませんが、でも学年関係なくダメなところはダメと言える信頼関係があるので、それは自分たちの大きな武器だと思っています」

[page_break:鍵を握るのは1番・投手の塚本侑弥]

鍵を握るのは1番・投手の塚本侑弥

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カギを握るエースで1番の塚本侑弥

 梅崎監督の言葉は控えめだが、秀岳館、長崎海星といった甲子園での実績もある強豪校相手に完封勝利を挙げて、九州大会ベスト4に進出したのは紛れもない事実だ。大会ではエースで1番打者の塚本が大車輪の活躍を見せて、チームを支えた。

 167センチ、64キロと身体は小柄であるが、 球速表示以上の威力を感じさせる直球とコーナーへのコントロールを武器に強打者を次々と封じ、またバットでも秋は打率.471を記録。エースでありながら、1番に座る理由について梅崎監督は「一番良い打者だから」と信頼を口にし、 塚本の投打での活躍が有田工の上位進出の必須条件とも言える。

「マウンドで迷ったりせずに、淡々と投げることができるのが塚本の良いところです。佐賀大会では失点も目立ちましたが、九州大会までの1ヶ月で調整が上手くいって、強豪校を相手にも良い投球を見せてくれました」

 また塚本をリードする、正捕手で主将の上原の存在も大きい。 「言ったことをどんどん吸収してくれる」と梅崎監督も全幅の信頼を置き、塚本との相性も抜群。試合前には相手打者のデータをしっかり頭に入れるなど、研究熱心な姿勢も捕手向きで、まさにチームの屋台骨を担う選手だ。

「塚本がリズム良く淡々と投げることができるのは、捕手の上原がしっかり考えながらリードできているからです。塚本に足りない部分を上原が補って、2試合連続の完封勝利に繋がったと思います」

 打線では塚本の他に、2番の松尾 脩汰内野手(3年)、3番の山口 駿介外野手(3年)が鍵を握る。「良い打者順に並べています」と打順の意図を梅崎監督は明かし、また4番に座る伸び盛りの2年生・角田 貴弘内野手が、走者をかえすのが有田工の攻撃パターンだ。

 4日の抽選会では、初戦で國學院久我山(東京)との対戦が決まったが、選手、監督は揃って「失うものはない」と無欲を強調する。

 佐賀県勢としては21世紀枠で出場の伊万里を除くと、九州大会ベスト4でセンバツ出場を決めたのは2007年の小城以来15年ぶり。そして初戦突破となれば2000年の佐賀商以来、22年ぶりの快挙となる。

 平均身長169センチの公立校が、聖地でも快進撃を見せるか注目だ。

(取材=栗崎 祐太朗

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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