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3季ぶりの甲子園出場・全国制覇を狙う大阪桐蔭の現在地。「我の強い集団が1つになったとき」

2019.12.24

 2018年、史上初の二度目の春夏連覇を果たした大阪桐蔭。しかし2019年は春、夏ともに甲子園出場ができず、悔しい1年となった。3季連続甲子園出場なしは避けなければならないという思いからスタートした今年のチームは近畿大会決勝まで勝ち進み、2年ぶりの選抜出場が近づいている。

 今回は2020年、オリンピックイヤーでの飛躍が期待される大阪桐蔭特集を半年ぶりに再開します!まず初回は近畿大会準優勝になるまでの過程を振り返っていきます。

我が強いことは悪いことではない。チームが1つになった瞬間

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監督の話を聞く大阪桐蔭の選手たち

 12月。
 大阪桐蔭は個人練習期間に入る。これは、組織的なプレーは行わず、選手がそれぞれのスキルアップのために取り組む期間である。この期間は選抜出場の可否によって決まるが、練習に取り組む選手たちは真剣さがありながらも、どことなく明るい。

 近畿大会決勝まで勝ち進んだことは間違いなくモチベーション高く練習ができているのが伺える。

 夏は大阪大会準々決勝で終了。主砲・西野力矢など実力ある選手が多く揃うこの世代の中で、藪井駿之裕が主将に就任した。薮井は大東畷ボーイズから主に内野手として活躍。

 薮井のはとこは報徳学園で活躍していた氏家大輔氏。氏家氏の応援で2008年夏の甲子園で報徳学園vs大阪桐蔭戦を見ていた薮井は大阪桐蔭の強さを実感して、憧れを持った。誘いを受けたときは非常にうれしい気持ちになったという。

 1年秋の近畿大会でベンチ入りしたが、この春、夏とベンチに外れ悔しい思いをしていた。

 2年前は中川卓也、1年前は中野波来と下級生時代からレギュラーとして活躍していた選手が就任しているだけになかなかない抜擢だ。

 

 西谷浩一監督は「主将選びの基準にベンチ入りの有無は関係ない」と語るように、薮井は同学年の選手からの人望が厚く、西谷監督と2年生との個人面談でも薮井を推す声が非常に多かった。

 薮井は前主将の中野に報告し、「頑張ってくれ。『俺たちは出ていないから春の甲子園に何としてでも出てくれ』といわれたときは頑張ろうと思いました」と主将としてチームを引っ張ることを心に決めた。

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大阪桐蔭・西谷浩一監督

 夏休みでは、2016年以来の夏の甲子園出場なしということもあって、約1か月間は練習と練習試合の毎日。西谷監督は「とても充実した練習ができたと思います」とチーム作りは順調に進んだ。

 ただ薮井はチームをまとめることに苦労したと振り返る。「最初はバラバラでしたね。言い方は悪いですが、自己中心的な選手が多いんです。僕たちの学年は23人いるのですが、23通りの考え方、さらに自分が一番になりたい思いがあるので、まとめるのはしんどかったですね」

 我が強いことは悪いことではない。もともと全国制覇したい、プロに行きたい。そういう上昇志向を持った選手たちの集まりが大阪桐蔭である。

 薮井は選手たちのベクトルが1つの方向に向くために副主将の柳野友哉吉安遼哉清水 大晟や前チームから出ている選手を含め10人を中心にミーティングを行った。そこで出た答えはお互いを認め合うことだった。

 「今の2年生は1人1人が負けず嫌いで、自分が一番という気持ちの選手が多いので、競争心が高いです。競争をしていく中で、だからお互いが認め合い、1人1人の努力を認めることを大切にして、良いチームを目指そうと思いました」

 ようやくまとまり出したのは、大阪府大会準決勝に勝利し、決勝戦の相手が履正社に決まった後からだ。決勝戦まで1週間あったことで、勝つためにどうすればいいか話しあうようになった。
 「履正社さんは夏の甲子園で優勝されているチームなので、勢いもあって、経験もあります。そういうチームが勝つためにどうすればいいのか、岩崎君をどう打てばいいのか、毎晩遅くまで話し合ったり、素振りも一緒にするときも仲間に『今の感じはどう?』と確認しあったり、一緒に練習しはじめてまとまってきたなと感じました」

 一番になりたい気持ちが強い選手たちが宿敵を破るためにどうすればいいか協力するようになり、チームが1つになる転機となったのだ。

[page_break:明石商戦で感じたチームが1つになった瞬間]

明石商戦で感じたチームが1つになった瞬間

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薮井駿之裕主将

 決勝戦では、9回終わって6対6と熱戦になり、そして延長10回表に3点を勝ち越し、9対6で宿敵との対決を制し、優勝を決めたのだった。ここから選手たちは勝つためにどうすればいいか情報共有するようになった。

 そして近畿大会準々決勝の明石商戦はエース・中森俊介、スラッガー・来田涼斗を中心とした強力なチーム。ここでも勝つためにどうすればいいか話し合った。ここでも薮井は選手たちの意識の進化を感じ取っていた。

 「中森君を打つために、選手たちが話し合うのですが、感じ方は人それぞれなので、それをお互いが共有することが自然となりました。何より普段、口数が少ない西野力矢がすごいしゃべっていて、チームワークが凄い良くなったと思いました」

 この試合では頼みの主砲・西野が3ランを放ったが、主将の薮井は西野が本塁打を打つ予兆を感じたという。
 「僕と西野は寮が相部屋なのですが、僕に『なんか調子がいい感じ、打てる気がする』といってきて。打撃練習ではそんな感じではなかったのですが、試合に入ったら、いつもより一段と集中していて、打ってくれたんですよね。西野は集中するところは何でもやってくれるので、本当に頼りになる選手だなと思いました」

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トレーニング中の模様

 こうして近畿大会では準優勝を収める。勝ち上がる過程の中で、履正社明石商智辯学園といった強力チームに勝利しての準優勝は価値は非常に大きい。

 それは短期間で勝つためにお互いが協力して、話し合ったり、練習したりしたことが、結束力を固め、大きな成果を挙げることができたのだろう。

 ただ、課題はもちろんある。薮井主将は語る。
 「近畿大会決勝戦では粘り強さがなくなってしまったと思います。12失点した投手陣もそうですけど、またなんとしてでも止める守備陣。打撃でも1年生の達くんを打ち崩す中で、データがない投手を対戦する中、ただ見極めるだけではなく、簡単に終わってしまったところ。劣勢になるにつれてどうすればいいかという声かけも少なくなってしまい、弱さが出た試合だと思います」

 その後、近畿大会終了後は育成試合と銘打ち、それまで試合に出ていない選手が出場。さらに紅白戦をしながら実力をつけている。大会終了後のチームの変化について、
 「それまで試合に出ていない選手が活躍を見せていて、学年関係なくやっているぞという気持ちが出ていて、それを見て試合に出ている選手たちにもうかうかしていられないと自分たちでやっていかないと感じになっています」

 危機感を抱きながら、練習に打ち込んでいる。再び全国制覇を狙うチームになるには、この冬の練習の取り組みがとても重要だ。

 そのトレーニング内容、練習内容を見るととても意識が高く、毎年、一冬超えると、尋常ではない強さを発揮する大阪桐蔭の秘密が垣間見られた。次回はトレーニング編について紹介したい。

(文・河嶋 宗一

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大阪桐蔭特集2020 配信スケジュール

12月23日(月)
【動画】特集スタート編

12月24日(火)
【コラム】野球部訪問 vol.1(12:00)
【動画】打撃練習編(21:00)

12月25日(水)
【コラム】野球部訪問 vol.2(12:00)
【動画】捕球・キャッチボール編(21:00)

★26日~31日まで、年内はまだまだ大阪桐蔭のインタビューや野球部訪問を公開するよ!

1月3日(金)
【動画】「大阪桐蔭野球部の今」スペシャル編

★1月もまだまだインタビューや野球部訪問を公開するよ!お楽しみに!

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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