Column

組織修復の目安

2013.10.15

皮膚は他の組織に比べ修復が早い

こんにちは、アスレティックトレーナーの西村典子です。

ケガをして病院に行ったとき、「全治○週間ですね」とケガから回復するまでの期間を医師から告げられることがあると思います。「何としても試合に間に合わせたい。でも時間がない」という悔しい思いをしたことがある選手もいるかもしれませんね。病院ではケガをして十分に運動ができない状態から、日常生活に支障がないところまで回復する期間を「全治」として表現することが多く、実際にプレーに復帰するまでにはもう少し時間がかかるケースもあります。今回はケガをした部位の組織による修復の目安についてお話をしたいと思います。

◆組織修復の大まかな目安
「スポーツ指導者のためのスポーツ外傷・障害」という書籍によると、ケガをした部位の組織が修復するまでにかかる日数は次のようにまとめられています。

・皮膚 → 約1週間
・筋肉(軽症) → 約2~3週間
・筋肉(重症) → 約2ヶ月~
・腱 → 約2ヶ月~
・靱帯(軽症)→ 約2ヶ月~
・靭帯(重症)→ 約6ヶ月~
・骨 → 約2~6ヶ月
・神経 → 約6ヶ月~

皆さんも実際に経験されて実感したことがあるかもしれませんが、皮膚の擦過傷(さっかしょう:いわゆるすり傷)だと、だいたい1週間程度で良くなりますが、太ももの肉離れなどを起こすと復帰までに早くても2~3週間、遅い場合は2、3ヶ月かかってしまったということがあるかもしれません。私が今まで経験してきたことから考えてみても、およそこの組織修復の目安が参考になると思います。それぞれについて詳しく説明していきましょう。

◆皮膚の損傷
皮膚は外界のあらゆる刺激から身体の中にある組織を保護する“バリア機能”の役割があり、皮膚の損傷によって皮膚表層にある雑菌や外界の病原菌などが容易に身体の内部に侵入します。皮膚そのものの組織修復にはおよそ1週間程度が目安といわれています。

◆筋・腱の損傷
デッドボールやクロスプレーなどによる直接的な外力で損傷する場合と、走っている時や投球時などに筋肉が強い力で伸ばされて、その牽引力に耐えられず、筋線維や腱が断裂する場合とがあります。筋肉は血流の豊富な組織であり「血液を含んだスポンジ」と考えることが出来ます。筋肉の損傷の多くは内出血を伴い、細胞が破壊されることによる炎症反応も強く出る傾向にあります。

ケガをした初期のRICE処置が適切に行われなければ、損傷部位の瘢痕(はんこん:かさぶた、傷跡のようなもの)化が筋肉の内部に生じ、筋力や柔軟性の低下がみられ、筋肉を伸ばしたり動かしたりすると痛みを伴います。軽度の筋損傷でも約2~3週間の修復期間が必要なのですが、競技復帰をあせるあまりに早い段階で運動を再開してしまうと、損傷部分にカルシウム沈着を生じることがあるので(骨化性筋炎)注意が必要です。


プレーを再開するときは修復期間を参考に

◆靭帯の損傷
靱帯は骨と骨が離れないように機能しています。靭帯が損傷されると、靭帯全体の強度は低下し、骨と骨との接合部分に不安定感をもたらすことになります。これがいわゆる「グラグラする感じ」であったり、痛みの原因になったりします。引き伸ばされた損傷部位はゆるみを生じ、内部に瘢痕組織が加わり、もとの強度を失います。捻挫(ねんざ:捻ったり、挫いたりすること)を繰り返すと、靭帯は組織が変性し強度を失って関節の不安定性を増大させるのです。

手術ではなく、保存的に治療を行う場合でも靭帯損傷の修復には最低6~8週間の固定が必要とされています。関節動揺性(グラグラ感)が非常に大きい場合は手術によって靭帯を縫いあわせたり、再建といって靱帯を移植することが確実であるといわれています。靱帯の手術を受ける場合に「全治半年、10ヶ月、1年」などと言われるのはこうした靱帯組織の特性が大きく関わっています。

◆骨の損傷
外傷時の痛みは骨(正確には骨膜)に由来する痛みが最大といわれています。骨癒合の比較的早いとされている鎖骨や手の中手骨でも、その治癒に最低でも2ヶ月を必要とします。骨折の診断はレントゲン検査による確認が必要ですが、外傷時は常に骨折を想定した応急処置が望まれます。

◆神経の損傷
四肢外傷時に身体の末梢部にしびれや皮膚感覚の低下などが存在すると、神経損傷が疑われます。運動機能が正常であれば、数週間で皮膚感覚は正常に戻りますが、その間にも筋力低下は起こるといわれています。まったく皮膚感覚が消失している場合は、神経が強く挫滅されているか、神経が断裂している可能性が高く、挫滅の場合は、神経機能が回復するのに約6ヶ月程度かかるといわれています。

こうした組織修復の期間はあくまでも目安ですが、組織が修復していない段階で競技復帰をしてしまうと、再度同じところを痛めてしまい余計に時間がかかってしまうということも考えられます。ケガをするとどうしても早くプレーしたいとあせる気持ちは理解できますが、ケガをした部位はある程度修復するのに時間がかかることも覚えておいてくださいね。

【組織修復の目安】
●ケガをした部位の組織修復にはある程度時間がかかる
●皮膚であれば1週間程度、筋肉、腱、靱帯などは2ヶ月~半年程度
●骨は骨癒合に2ヶ月程度かかる
●神経は一番時間のかかる組織の一つで、数週間から半年程度かかることも
●組織が十分に修復していない状態でプレーをすると再受傷のリスクが高くなる

(文=西村 典子

次回、第79回公開は10月30日を予定しております。

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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