嘉手納高校 眞玉橋元博監督が語る投手育成法 第3回
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効率の良い練習方法とは
「時間にルーズではなく、キビキビとしている練習に対して、効率の良い方法ですねということは良く聞く話ですが、僕が思う効率の良い練習方法というのは、意味の無い練習をしないこと。実戦に繋がる練習をすることなんです 」
そう沖縄県立嘉手納高校(※)の眞玉橋元博監督は語る。※2013年4月から人事異動で美来工科高校へ赴任
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▲高重心投法ではリリースポイントが前にくる
前回(嘉手納高校 眞玉橋元博監督が語る投手育成法 第2回)、お伝えした「低重心投法」と「高重心投法」を例に出してみよう。
比較的高重心投法を勧める嘉手納高校では、マウンドからファーストやセカンドへの牽制(けんせい)練習を他校に比べて多くする。
言われれば、なるほどと納得するだろうが、牽制するときは全てのピッチャーがショートステップで送球する。沈み込んで投げる人はまずいない。つまり、牽制練習がそのまま高重心投法の踏み出す左足(右投手の場合)の使い方に繋がるというわけだ。
また、こういう練習方法も見たことがあるだろう。左足一本で立ってのスローイング(右写真)と、深く股を割った状態をキープしたまま、重心を左足、右足ときて、スローイングする方法だ。(どちらも右投手の場合)
ところが、低重心投法の選手に対しては、股割りスローイングは有効だが、左足一本立ちの練習は余り意味を成さないし、高重心投法の選手に対し、左足一本立ちは有効だが、股割りスローイングは意味を成さない。これこそが、眞玉橋監督のいう効率の良い練習方法である。
「ある意味、僕の指導は特異なものに映るかも知れませんが、こういう効率の良さが無いと、中学でレギュラーから遠かった子たちだけで県大会の上位に食い込むなんて無理なんです。ただ、僕が人との巡り合わせだけで甲子園へ行った監督というのなら、2009〜10年の池原・眞謝のチームの時だけだったでしょう。でも、その後も比較的結果を残していることで、生徒たちも納得してついてきてくれているのかなというのはあります 」(眞玉橋監督)
沖縄県には野球部だけで行う競技会が毎年1月に行われる。(関連記事:第41回沖縄県高等学校野球部対抗競技会)遠投や置きティーからの打撃、ダイヤモンドを使った送球タイムなど8種目を競うのだが、2010年の競技会では遠投で1位が宮國椋丞(糸満-巨人)ときて、2位と3位が池原有・眞謝博哉の嘉手納バッテリーだった。その二人を擁しての九州地区高校野球大会優勝、そして選抜出場も果たしたが、その代以降の翌年も、眞玉橋監督率いる嘉手納高校は、2011年春季準優勝、同年秋季県大会ベスト4と好成績を残している。
[page_break:ショートステップ(高重心投法)のもう一つの利点とは?]ショートステップ(高重心投法)のもう一つの利点とは?
「球が遅い子が速い子に挑戦するには、例えば制球力で立ち向かおうとするのなら、低重心投法ではなくショートステップにした高重心投法で且(か)つ、テイクバックを小さくすると良いのです」(眞玉橋監督)
コントロールをつけようと思ったらショートステップが楽だ。テレビではプロ野球選手がストラックアウトに挑戦して的を射抜くシーンが度々出てくるが、どの選手も沈み込む低重心投法では絶対に投げない。
つまり、ショートステップの方がコントロールし易いのだ。さらに言えばテイクバックを大きく取って全力で投げる姿もまず見ないだろう。こういう例えを挙げると子供たちも納得出来る。前述した効率の良い練習方法にも繋がるのだ。
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▲高重心投法ではリリースポイントが前にくる
「楽な手投げに見えるショートステップ投法だけど、腰の回転は低重心投法よりも大きくなる(可動域が広がる)から、僕から見たらすごく下半身を使って投げていると思っています」(眞玉橋監督)
確かに深く沈み込んで投げる低重心投法は、下半身を使って投げているように映る。対してショートステップ且つテイクバックを小さくして投げる高重心投法は、手投げに見えるし、下半身のエネルギーを効率良く上半身に伝えていないように映る。
だが、眞玉橋監督から言わせれば、両者はエネルギーの使い方が違うだけなのだ。
「前後の腹背筋運動と前に向かって行く動きのベクトルが低重心投法。対して高重心投法では低重心投法の両方の動きはエネルギーとはせずに、広がる腰の可動域をボディターンのエネルギーに変える。この違うベクトルに気付かない人たちがみんな、嘉手納のピッチャーは手投げだよねというふうに見てしまうのです 」(眞玉橋監督)
高重心投法の論理自体、実は20年前から持論としていたという眞玉橋監督。しかし当時は、新しいことをすることの難しさを感じずにいられなかった。
学校で教えても、いつの間にか元通りになっている。先述した眞玉橋監督の理論を知らない親や周りが、手投げだといっては元に戻してしまっていたのだ。
そういう意味では2010年に春の選抜へ出場したのが一つの分岐点だった。
「やっと受け入れられてきたかな」と眞玉橋監督は笑った。
軸足のかかとを上げる
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「良く“下半身を使って投げなさい”と言うじゃないですか。でも子供たちにしてみたら、じゃあ、どうやって下半身を使えば良いのですか?となるわけですよね 」(眞玉橋監督)
入学時に125キロをマークした、元キャッチャーの1年生(右投げ)の例を挙げよう。彼は元々プレート側の軸足が、ギリギリまで粘るタイプの投げ方だった。眞玉橋監督によると、色々教えなければならないことが先にあり、ようやくこの冬トレの時期にきて下半身を使って投げることに取り組んだばかりとのこと。
しかし、その甲斐あって、球速は131kmまで伸びてきた。だが、このまま放らせていたら、高い確率で肩や肘を痛めやすいと感じた眞玉橋監督が伝授した方法は、軸となる右足、プレート側の使い方だった。
「左足が着地する前に、右足のかかとを上げなさいと伝えてあります」
ユニフォームの膝の部分に隠れてしまって、少々分かりにくいかも知れないが、写真でご覧いただこう。
前足が地面に着地する前に、後ろの軸足のかかとが浮いているのがお分かりいただけるだろうか。さらに腰の部分にも注目してほしい。ねじりが確認出来、ここからエネルギーが爆発していくことが十分伝わる。
そう、軸足かかとを上げることにより、より多くのボディターンのエネルギーが生まれ、結果、腕を強く速く振ることが可能となるのだ。
股関節が柔らかくない子が、腰がロックされた状態から、そんな子が腕をより強く振ろうとしたら、肩や肘に負担がかかるのは火を見るよりも明らかだろう。
「肘を送れと、これも良く言われますがボディターンが出来ていれば、肘は勝手に出てきます。でんでん太鼓がそうです。軸が回るから、腕が振られてくるのです」
かかとを上げないよりも、上げた方が腰が回る。腰が回るから腕、肘が送られてくる。だからより強く振ることが可能となる。まさにでんでん太鼓。
それでは、どうやって腰を回そうかという視点から、軸足かかとを上げて送り込むことに着眼点を置いたのだ。
「前足が地面に着く前にかかとを上げる訓練をしよう。そこで生まれるボディターンを前足に乗せること。これが下半身を使うことなんだよというと、高校生でも具体的に呑み込めるじゃないですか」
キャッチボールでも素振りでも、たださせているだけではお喋りが多くなるし、集中力も欠けてくる。
だが目的を示し、テーマを与えればそれも自然と減ってくる。ここにも眞玉橋監督が掲げる効率の良さが見られる。
「プレートに対して軸足を開く選手というのは、実は結構多いんです。やってみれば分かりますが少しでも開いて投げると、勝手に体は開いてしまう。力が逃げた状態で投げても棒球になるだけです。ですが、かかとを上げて投げると、開きを抑えることが出来る。ということは体がギリギリまで開かないものだから、一瞬のボディターンエネルギーで爆発させることが可能となるのです」
1年生の頃は、球が速くて凄いという声が聞こえていたのに、2年、3年生となるにつれて、アレこんな程度だった?という投手もたくさんいる。または、肩肘を壊したという選手もたくさん聞く。そんな選手たちにもぜひ、伝えたい考え方のひとつである。
眞玉橋監督は最後にこんなエピソードを教えてくれた。
「去年のショートの選手なんですけどね。一つ下の学年の選手とポジション争いをしていました。ですが脚力、肩力、打撃力どれを取っても下級生の子に負けていました。唯一勝っていたのが、打球を取ってからの速さでしたが、それでも打球を良く弾いてもいたんです。お前、どうするんだ?と聞いたら、弾かないように、エラーしないように堅実に取りにいけるようにしたいと答えました。
でも、僕はそれは違う!と。だって堅実に取りに行くということは、唯一勝っている速さを殺してしまうことじゃないですか。それじゃ何一つライバルに勝てないじゃないかと。
それよりノックを誰よりもたくさん受けて、弾かないように上手くなれと勧めました。そしたら弾く回数が減ってきて、元々あった、取ってから投げるまでの速さが、より活きて見られるようになったんです。
それがその選手の自信に変わって、それ以降、打力もアップして最後は実力でレギュラーを勝ち取りました」
眞玉橋監督の言葉のように“守り”に入ってしまう子は少なくないだろう。だが、自分にしかないモノを長所として伸ばしていけば、それは立派な武器となる。
そのような“攻め“の姿勢、プラスの思考が、大舞台の試合やここ一番といった場面でこそ、実は必要なものではないだろうか。
長所伸展――自分にしかないモノを伸ばしていくことで、閉ざされていたひとつの可能性が展開されていくことを願ってやまない。
(文=當山雅道)