指導者、投手必読の一冊。 プロの一流投手も読んでいる至高の投手論『クオリティ・ピッチング』
実際の試合動画で読める『クオリティ・ピッチング』
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『クオリティピッチング』・KKベストセラーズ・黒田博樹
この『クオリティ・ピッチング』は、本の中に書いてある内容と、それを実践した実際の試合と黒田投手本人の解説動画40本が連動して見られる画期的なシステムが組み込まれている。
実際、この本を読んだ高校球児から、
「動画と連動した箇所を読むだけでも、勉強になる。そして本当に単純な方法で、フォアボールが格段に減った」(県立高校野球部投手)
「メンタル的や技術的なことが書いてある本はたくさんあるけれど、実際の試合における配球が書いてあり、かつそれが動画で見られる本は初めて。背番号1のプレッシャーもあったが、この本を読んで自信がついた」(私立甲子園強豪校投手)
など、多くの反響があったという。
また、読んでいるのは球児に限らず、某球団のエース投手を始めとしたプロの投手もバイブルとする。とある球団のコーチは、
「技術論も一流だけど、最後のメンタルの章(第9章)。これは彼じゃないと書けない。この姿勢こそ、いまのうちのチームにほしいものだ」
と教えてくれた。
今回は、そんな『クオリティ・ピッチング』から、この冬場をいかに過ごすか、をキーワードに書いてみたい。
[page_break:投手は自分を知ること、それが正しいトレーニングの第一歩である]
投手は自分を知ること、それが正しいトレーニングの第一歩である
ニューヨーク・ヤンキース 黒田博樹 投手
言わずもがな、野球にとって投手はもっとも重要なポジションである。
特に、高校野球においては、投手の出来が勝敗を分けると言っても過言ではなく、投手力のあるチームが甲子園へ勝ち上がり、そこで躍進してきた例は枚挙にいとまがない。
しかし、一方で投手ほど育てることが難しいポジションはない。
育てると言っても、コントロールなのか、球のスピードなのか、はたまたマウンド度胸なのか、配球における知識なのか……。身につけるにはあまりに膨大な能力が必要とされているからだ。
春の開幕シーズンに向けて、いま投手は何をすればいいのか。
どうすればレベルアップできるのか。成長することができるのか。
そんな高校球児そして指導者への答えが、この『クオリティ・ピッチング』(黒田 博樹・著)にある。
著者の黒田 博樹投手は、言わずもがな2013年までNYヤンキースに所属し、日本人メジャーリーガー初の4年連続二桁勝利を挙げたメジャーでももっとも評価の高い日本人投手である。
黒田投手は『クオリティ・ピッチング』のなかでこう書いている。
「(中略)なにより重要なことは自分を知ることだと思います。これは投手を目指している人には必ず覚えておいてほしいことです。自分の特徴とはなにか。対戦相手は自分をどのように見ているか。どう評価しているのか……。」(P25)
投手を育てることが難しい理由のひとつに、取り組む課題、練習方法がありすぎて、その選択が各々に合うかどうか分からないことがあるだろう。例えば、新球習得に取り組むべきか、それともコントロールをつけるべきか、はたまたスピードアップを目指すのか……。またたくさんある課題に対し、その解法もまたさまざまで、投げ込みを中心にすべきか、ウエイトトレーニングを中心にすべきか、フォーム矯正に取り組むべきか……と挙げればきりがない。
たくさんの課題とたくさんの解法。
そこから、どれを選択するか。投手が正しく育つためには、その選択が間違っていては話にならない。しかし、実際の現場では多く、その間違った選択をしてしまっている場合がある。黒田投手は『クオリティ・ピッチング』のなかで、こう続けている。
「もしかしたら、世間一般に言われているやり方が、自分の特徴には合わない方法だということだってありえます。
例えば、僕は股関節、足首がものすごく固く、ピッチングの際の踏み込みの歩幅は出ません。その硬さは、正座もできないくらいです(中略)。一般的に、いい投手の条件とは、股関節が柔らかく、踏み込みの歩幅が広いことだと言われますが、これに関しては、僕には当てはまらないものだったといえるでしょう。もちろん、股関節が柔らかくなるよう努めましたし、歩幅を広くする練習にも取り組みました。ただ僕の場合、その常識が自分のスタイルには合わないと知り、「いまある自分」を受け入れ、その中でどうやってよいボールを投げるのか、バッターを打ち取るのかを考えるようにしたのです(中略)。
伝えたいことは、いわゆる常識だと思われていることにだって、合う合わないがある、ということ。そして、常識とされているものができないからといって、強いボールが投げられないとか、勝てる投手になれない、というわけではないということです」
(P25~26)
150キロ以上の速球を投げる黒田投手の股関節が固い、ということも驚だが、それ以上に「常識とされているものができないからいい投手になれない」わけではない、という指摘は、非常に重要だ。少し引用が長くなるが、さらに続けよう。
「だからこそ、まず自分をよくよく知ったうえで、自分にとって必要なものとはなんだろう、と逆算して練習に取り組んでいかなければなりません。
自分の特徴と、傾向をしっかりと頭に入れてピッチングをすること。
それは、メジャーリーガーだから、というわけではなく、高校生であっても小学生であっても、先発投手に共通する重要なことだと思います。」
(P26)
つまり投手は「自分を知る」ことが出来なければ、適切な課題、適切な練習方法がとれないのだ。この冬場のトレーニングは、まず「自分を知る」ことから始めなければ、正しく成長することはできないであろう。
[page_break:黒田博樹投手の球種、フォームはいかに作られたか]黒田博樹投手の球種、フォームはいかに作られたか
本書のなかで紹介される、黒田投手の「ツーシーム」「スライダー」「フォーク」の握りと使い方(第3章)や投球フォームのポイント(第4章)も、「自分を知る」ことで、試行錯誤し、練習を重ねて身につけた方法が書かれている。例えば、スライダー。できるだけ大きく変化させたい、と練習を重ねる投手は多いだろうが、黒田投手は違う。
「(自分のツーシームの軌道を把握した上で)なるべく大きく変化させず、ストレートの軌道から曲がっていく球が理想なのです」(P73)
フォームに関しても、こう書いている。
「僕のフォームは軸足で立って左足を上げる前に、外側、つまりマウンドを中心にしたときのセンター方向、に一度体重がかかっています。そうしてまず外側に体重がかかり、そこからビタっと一度止まる。(中略)投手を経験されたことがある方なら、今の僕の説明に「えっ」と思うかもしれません。僕のイメージは、俗に言われる投球フォームの基本に反しているからです。
ふつう、投球フォームにおいて、軸足で立つ際に、外側(センター方向)に力を逃がすことはよくないこととされています。バッター側に向かって投げようとするときに、反対側へ力を逃がしてしまっては、一気にそのパワーを伝えられないからです。
実際このフォームは、誰かに教わった訳ではなく、自分でどうやったらタメが作れるか、横の間が作れるか、ということを考えているうちに自然にひとつのリズムになっていったものでした。タメや横の間を作る場所というのは、投手によって変わってくるもので、たまたま僕は、ココだったということでしょう。僕にとっては、これまで積み上げてきたひとつの成果といえます。」
(P94)
このように、黒田投手は「自分を知る」ことで、習得する球種、その使い方、フォーム、そのポイントを体得してきたのである。
黒田投手が、どのようにして「自分を知った」のか。
冬場の大事な時間を有効に使うためにも、本書でそれを掴んでほしい。
また、本書は先にも書いたとおり、実戦における配球のテクニックや、投手がもっておくべきメンタリティなど、世界の第一戦で活躍する黒田投手の技術が惜しみなく披露されている。投手、捕手そして指導者の方にはぜひ一読してもらいたい。
(文・写真=高校野球ドットコム)