Column

本物のチーム力とは何か

2013.06.28

遠藤友彦の人間力!

 全国各地で夏の予選が始まろうとしています。三年生は「最後の夏」を目前にして、不安な心とワクワク感でいっぱいだと思います。今まで支えてくれた人たちへの「恩返しの夏」、どこまで自分の力を発揮しきれるのか。今までのエントモコラムの中に”発揮するための秘訣”を書いているので参考にして下さい。

自然体は最強!

 最後の夏…自分たちの考える試合展開になることは、ほぼないと思います。

「あれだけ抑えていたエースが簡単に打たれるなんて」
「コントロール抜群の投手が、ストライクがまったく入らない」
「いつもチャンスで打っていた打線が急に沈黙」

 エントモコラムで何度も書いていますが、心と身体はセットになっています。心の状態が今までと違ったものになれば、動きもぎこちなくなるのです。

 思うように動けなくなる元凶は、「結果思考」です。結果を描きながらプレーしていれば、力が入りすぎたり入らなかったり自分をコントロールできなくなります。

どうしたら自然体になるのか考えよう

 自分の力が最大限に発揮できる「力が抜けている状態」にいかに持っていくかです。当たり前の実践は、ある意味、自分の心を自然体に近づけていくためにします。エントモ流弱者の戦いは(エントモ著書・「準備力」参照)氣合い・根性・勢いだけじゃなく、やるべきことを明確にして戦います。

 もう大会まで数日。どうしたら自然体になれるのかを考えなければいけません。たった数日でも、自然体に近づけるような行動を繰り返しして本番を迎えるべきです。

 数年前、あるテニスプレーヤーが私に言いました。
 「私は練習では抜群の動きをして、対戦相手を圧倒しています。しかし、大会になると格下相手に惜しいところで負けてしまいます」

 私はテニスについては詳しくありませんが、彼女に「ゴミ拾いを徹底的に一週間するといい」とアドバイスしました。大会終了後、今までにない成績を収めたと彼女が報告してくれました。

「今までと何が変わりましたか?」
「試合中は、面白いように相手のことが観察できて、自分のペースで心揺らすことなくできました!」

 ゴミ拾い効果、すごいですね!持っている技術は変わりませんが、当日の心の状態によって大きくプレーは変わっていくのです。ゴミ拾いをしていると「氣づく力」が鋭くなっていきます。また”よいこと”を継続していると、心が整った状態になるのです。

 テニスの話だけはなく、野球の世界も同じことがいえます。夏の大会まで数日間、バタバタして焦るよりも原点回帰で当たり前の実践をきっちりやることをおすすめします。

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[page_break:甲子園で勝つのは難しくない]

甲子園で勝つのは難しくない

心の揺れを最小限に食い止めよう

 さて、私が過去指導していた北海道の駒大苫小牧は、2004年の甲子園大会で全国優勝し、翌年連覇、そして田中将大投手が3年生の2006年には全国準優勝の成績を収めました。快進撃を続けていた駒大苫小牧は、2005年春季全道大会一回戦で敗退し、次の大会から2006年夏の早稲田実に負けるまで公式戦48連勝という記録を持っています。

 練習試合でもほとんど負けなかった駒大苫小牧、なぜ、このように勝ち続けることができたのでしょうか。

 甲子園大会でも「逆転の駒苫」と言われたように、前半のビハインドに動じることなく後半でひっくり返す離れ業を何度もしていたのです。私も彼らのサポートをしながら感じていたのは、「負けるわけがない」という思考をほぼ全員が持っていたのです。

 野球の試合ですから、想定外のことが起こります。普通のチームであれば「やばい」と動揺するでしょうが、駒大苫小牧は動揺することなく最後は1点多く得点し、勝っているのです。

 私がサポートしていた甲子園では、「やるべきことに意識を集中しよう」ということをチーム全体で徹底していました。当時の監督であった現・西部ガスコーチの香田さんは「全体で徹底する」ということを大切に指導していました。選手もそれに応えて動ききっていたのです。

 選手は試合の中で、色々な感情になります。結果を考えすぎて不安になったり、思うような結果が出れば油断したり、試合の中で心は右に行ったり左に行ったり忙しいのです。

 常勝チームは、突発的に起こったことに対し、心の揺れを最小限に食い止めることができます。「うんうん、そんなこともあるよね。でも大丈夫!」というスイッチの切り替えができているのです。

 春の甲子園でサポートした高知は、38年ぶりベスト4の成績を収めました。高知の島田監督は、甲子園に春夏通算7回出場していましたが「遠藤さん、甲子園で勝つのはなかなか難しい…」そう大会前に口ずさみましたが、「そうですか?そんなに難しくないと思いますよ」と言いました。

 島田監督は1勝7敗。私が携わったチームの甲子園成績は19勝4敗1分。駒大苫小牧の勝ち星がたくさんありますが、「そんなに難しくない」という感覚を持っています。最初の感覚で、難しいと思うか簡単と思うかで思考や行動が変わって行きます。

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[page_break:「人として」も最高峰を目指そう]

「人として」も最高峰を目指そう

野球だけでなく人間的にも成長しよう

 何も根拠がないのに「難しくない」と言っているのではありません。やるべき準備をして本番を迎えれば、臆することがないと言っているのです。駒大苫小牧も快進撃を続けているときは、自分たちのやるべきことが明確で、何に集中するかがわかっているので自分たちの動きに焦点を当ててプレーしていました。

 やるべきことが明確なチームは、どんなに劣勢でも慌てません。「うんうん、大丈夫」の裏側には「はっきりしたモノ」があるのです。

 高校球児が目標にしているのは、もちろん日本で一番である全国制覇であると思いますが、同時に「人として」も最高峰を目指したいものです。たくさんの都道府県で高校野球の試合を見ますが「えっ、甲子園常連校の選手がこんな感じなの?」ということもしばしばです。身体が大きく技術も素晴らしいですが、適当な振る舞いを見ていると残念に思います。

「野球も素晴らしいけど、人間的にはもっと素晴らしい!」

 ここが高校球児の理想とするところではないでしょうか。”本物”という言葉を考えると、ビジネスの世界では「お金儲けがうまい人が本物」とは表現しません。ズバ抜けた成果もあげるけど、人間的にも非の打ち所がない、こういった人を「本物」というのです。

・技術はすごいけど、人間的には残念な感じ
・人間的には素晴らしいけど、技術のほうがイマイチ

 車の両輪のように、両方兼ね備えて大きな成果を出していきます。高校野球の年代で両輪を完璧にすることは不可能ですが、この両輪を意識して「よくしていこう」と思うことは大事だと思います。

 本物は「自分が、自分が」という心よりも周囲に対しての配慮が素晴らしいという特徴があります。余裕を持って周囲と接しているのです。対戦相手には全力で向かっていきますが、終われば戦友です。相手に対して敬意があり、「お互いよくやった」と称えられる人が本物です。

 今夏、全国で負けなしで終われるのは1校だけです。4000校以上のチームは、どこかで負けます。今はまだまだ本物ではなくても、本物のように振舞って最後を締めくくりたいものです。

 このコラムを読んでいる皆様が「納得する夏」になるよう願っています。

(文=遠藤友彦

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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