Interview

埼玉西武ライオンズ 牧田 和久 選手

2013.11.01

 
平成国際大学から日本通運を経て埼玉西武ライオンズに入団。2011年、いきなり完封でプロ初勝利を挙げる。シーズン途中から抑えとして活躍し、この年の新人王を受賞した。2012年にはチーム最多の13勝。2013年のWBCでは日本の守護神として活躍。シーズンに入ってからは先発を任され、2012年に引き続き1年間ローテーションを守り抜いた。防御率はリーグ3位。チームのAクラス入りに貢献した。
 
そんな牧田投手と言えば、アンダースローから放たれる、浮き上がるような直球と、強弱、硬軟織り交ぜた変化球、さらにタイミングを狂わせ相手を幻惑する投球術の持ち主。
 
その独特なピッチングに少しでも近づくにはどうしたらいいか?この冬のトレーニング方法や、投球術について、いろいろなお話を伺ってきました。

体を上手に使うために大切なこと

――まずは、今シーズンを振り返ってみていかがですが?

牧田和久選手(以下、牧田) 今シーズンは8勝9敗ということで、先発の役割を全然果たしていない。でも防御率は2.60という中で、自信になった部分もありますけど、もうちょっと勝てたんではないかな、と思います。
 
WBCではまあまあだったんですが、夏場に来て、いつも以上にへばっていたというか、もうちょっと下(下半身)を使って投げなきゃいけないんですけど、その頑張らないといけないところで、楽をして手投げになってしまう部分があった。そうなるとボールも弱かったですし、そういうキツイところでどう頑張るかが大事だったなと、今振り返って感じますね。

――WBCでは、自分の中でピッチャーとして成長したと思う部分はどこでしょうか?

牧田 気持ちの切り替えですね。やはり、ああやって日本を背負って、周りの選手も素晴らしい方ばかりの中で、自分がいる。
 
戸惑いもありましたし、自分で良いのかな、っていうところもありました。
 
ましてや日本代表の守護神ということで、プレッシャーはあったんですけど、いい開き直りができた。自分なりに一生懸命やって、打たれたらそれは仕方ないという割り切りが出来た。そうやって逆に開き直ったからいいピッチングが出来たのかなって。

埼玉西武ライオンズ 牧田和久選手

 それがシーズンに入って、先発ローテの中で、チームを勝たせなきゃいけない。勝てるチームなんだから、先発として、勝つように持っていかなきゃいけないという責任感が出てきた。そういうのが投球に出てしまったんですね。抑えなきゃ、しっかりしなきゃ、というところで腕が振れなく小さく、慎重に投げすぎてしまって、本来の自分のピッチングが出来なかったなというのが、正直なところだと思います。

――では、この冬のトレーニングテーマは?

牧田 もちろん下半身の強化も必要なんですけど、今年は強化というよりは、体の柔軟性をアップさせる。股関節周りだとか、肩周りだとか。その辺がシーズンで固くなっていると思うので、そういう所をほぐしながら、柔軟性をつけていきたいと考えています。

――これまで、大学・社会人と経験されてきた牧田選手ですが、柔軟性を意識しておけばよかったな、という場面はどこですか?

牧田 高校、大学、社会人というのは1年間試合をやっているわけではないんですね。期間が空いて、そこに合わせて追い込んで、調整して、入っていく。そういうやり方が出来ていたのでそんなに疲労もなく良い感じに調整で来ていたのが、プロに入って自分でメニュー組んでやらなきゃいけなくなりました。
 
その中で、どうしても疲労というのは蓄積していきますし、体が硬くなってしまって可動域も狭くなってしまって、本来の自分のピッチングが出来ない、っていうところを感じることも多かった。
 
とくに、今年1年、投げている中で、固いな、と感じる部分もあって、もうちょっと柔軟性高く投げられれば、ボールへの力の伝え方も出来てくると思うんです。1年間ローテーションを守ってきて少し硬くなっている部分を疲労をとってほぐしながら、柔軟性を強化してやらないと。来年優勝するために、必要なことだと思います。

――なるほどですね。オーバースローのピッチャーとアンダースローのピッチャーというのは、トレーニング内容は変わってくるものなのでしょうか?

牧田 いや、特にそんなに変わるということではないと思います。要は体の使い方なので、トレーニングはほぼ一緒です。ただ、アンダーの場合は、下半身の強化トレーニングはやっぱり他の人より意識してやらなきゃいけないなというのは思っています。

――強度を上げるということですか?

牧田 強度というより、自分のアンダースローで投げる体の使い方を意識しながらトレーニングをする。スクワットをするのであれば、ちょっと股関節を意識して。少しでも使っている場所を意識することで違ってくると思うんで。そこで、少しずつ負荷をかけながらも、柔軟性にも気を付けていきたいと考えています。

――牧田投手はもともと、柔軟性は高いんですか?

牧田 小さい頃から特別に何もやっていないですけど、柔らかさはあると思います。でもそれがちょっとうまく使えて無いのかな。アンダースローに限らず、身体は使い方は野球選手にとって大事ですね。上手く使えるかどうかでパフォーマンスが全く変わってくると思います。

[page_break大切にしたい野球用具のこだわり]

大切にしたい野球用具のこだわり

――用具のこだわりはあるのですか?

牧田 シューズであれば、なるべく色が派手なものを使ってますね。今は黄色が多いです。誰が見てもすぐ分かるので(笑)。
 
もちろん履き心地や強度もあります。本来はスパイクを履いてキャッチボールするのが良いんですけど、トレーニングシューズを履いてやるとなると、爪先がすれてきて、布製やスエードみたいな生地だと穴が開いてきてしまうので、そこはちょっとエナメルにするだとか、強度の面で意識はしてますね。
 
大学や社会人の頃からですが、今はシューズもスパイクもミズノを使っています。
 
スパイクは、自分の足に合ったものが一番だと思っていますし、選ぶ基準は軽さですね。どうしても土とか付くと重くなってしまうので。あとはケアも大事で、きちんと乾燥させる管理が大切ですね。

――アンダースローのピッチャーは、こんな観点で選ぶと良い、というのはありますか?

牧田 投げていく中で、スパイクがすれて土が入りやすいとかであれば、なるべく土が入らないように工夫する。紐だと砂が入って来ちゃって、それをとるのも面倒くさいので、自分は入らないように上にマジックテープみたいなものでカバーというか、そういうものをお願いしてつけています。

――グラブのこだわりはありますか?

牧田 サイズですかね。自分は小さい方がいいです。守りやすいので。高校の頃、投げた後は9人目の野手と言われていたので。投げて終わりではなく、投げ終わったら守るというのがある。守るという事になると大きいと守りづらいというか、取った感覚がないので、自分は小さいほうが守りやすい。グラブもミズノプロですね。革がやっぱりミズノのものが一番好きなので。

[page_break高校1年の秋にアンダースロー投手に転向]

高校1年の秋にアンダースロー投手に転向

――牧田投手が投げ方を変えたのは、1年の秋ですよね。自分で変えたんですか?

牧田 野球部の部長に下から投げてみろ、といわれてやってみたらいいボールが行ったのでそこからですね。別に嫌ではなかったですね。周りにいいピッチャーがいたので、なんかちょっと変わったものは無いかな、と思っていたというのもあります。

――3年の夏は背番号1。投げ方を変えて2年弱の間にどうやってモノにしたんですか?

牧田 とにかくしっかりとしたフォームで、あとはボールがしっかり行くか。コントロールに気を付けました。

――コントロールを高めるためにどのような工夫をしたのですか?

牧田 球数多く投げて、感覚を養うしかないですね。この辺で離したらそこに行く、っていう。あとは真剣に投げたらダメですね。適当さが必要です。真剣に投げると力んで他の所に力が入ってしまうので。テイクバックは力を抜いて、リリースにだけ力を入れる。力むとリリースの所に力が入らなくて回転が伝わらないので、無駄な力を抜く。
 
あとは、自主練習する時には、何か物に当てる。よく小さい頃にやっていたと思うんですよ。目標物に何かをおいて、変化球なり真っすぐなり投げて当てる。これから冬になっても、この自主練習は出来ますよね。

――高校野球でアンダースローの投手が結果を残すには、大切なポイントを教えてください。

牧田 やっぱりコントロールですね。アウトコース、インコースのコントロールです。あとは真っすぐ。いくらコントロールが良くても真っすぐに力が無かったらダメ。力と言ってもスピードじゃないですよ。ボールに回転力を与えるという、キレですね。
 
キレとコントロール。あとは腕を振っての変化球。変化球は、コースを狙わなくても、真ん中低めであれば、高校生のレベル位であれば打ち取ることは出来るんじゃないかな、と思います。上のレベルになってくると、きわどい所を狙わなければいけないんですけど、高校生のレベルであれば、真ん中低め。変化球は、真ん中低めでOKです!真ん中の低め、です。絶対!

――フォームに強弱をつけたい、タイミングを変えたい、という場合にはどうしたらいいですか?

牧田 今、気を付けているのは、やっぱり『間』じゃないですかね。ランナー無し、有での間の使い方。早い、普通、遅い、その間の使い方。使い方と言っても、時間も限られていますけれど。よく高校野球見ていると、パッ、パッと投げちゃうんで、一呼吸置いて、あとはバッターの仕草を見てからの、投げる、っていう。短くすると、真っすぐが差し込まれる。長く持つことによってバッターが焦れる。いつ投げるのか?早く投げろ、みたいにバッターがイラッと感じてくれるんです。

――間の使い方の磨き方ってあるんですか?

牧田 パートナーと2人でキャッチボール中、ストップウォッチをお互い持って、短い、普通、長い、って秒数を、3秒、6秒、10秒くらいとか決めて投げあう。
 
そうやって3つのタイプを練習しておくといいんじゃないかなと思います。でも、まだ高校生の段階でピッチングフォームの強弱だとか意識してしまうと自分のピッチングが出来なくなってしまうと思うので、必要ないかな、と思います。やっぱり、高校生の時は気持ちで抑えることも重要ですね。

――伸びあがる直球を投げるコツは?意識していることってあるんですか?

牧田 ボールに回転力を付けることですかね。弾くイメージで。
 
練習方法としては、立ってでも座ってでもいいんですけど、ボールを持って真上に投げる。で、ボールが真上に来たところで、リリースするイメージで弾いてボールに回転力を付けるんですよ。リリースだけをこの真上で投げる。
 
上手くいくと、真上から移動せずにパチッとなる。これが回転力が無くてフワーンだと上手くいかないんですよ。ボールに回転がかかっていると、移動せずに真上でバシッと取れる。これはアンダースローのピッチャーに限らず、野手でも誰でもできることなので。その感覚を身に付けることが出来れば、守備でも生かせると思います。

――最後に、高校球児にメッセージをお願いします!

牧田 僕は、諦めないことが大事だと思っています。勝利も上達もそうですし。諦めないこと。僕は諦めたことがないです。
 
勝ちたいって気持ちがあれば、勝手に体は反応するので。勝たなきゃ、どうしよう、とか固くなってしまうとボール球を振ってしまったり、ピッチャーでもマウンド立っていてピンチの場面でやばい!ここで打たれたら、ってなると本当に打たれてしまう。
 
ランナーをどんなに出しても、野手の所に打たせて取るっていうことを思えばそういう結果になると思うので。それで仮に打たれたとしても、それを引きずらずに、次のバッターを打ち取ればいいや、っていう開き直りをうまく出来れば大丈夫だと思います。
 
だからもう気持ちですよね。どのスポーツもそうですけど、成功をイメージして、過去は振り返らない。過去は戻れないじゃないですか。今でしょ、じゃないですけど、今が大事、ってことですね。

牧田投手ありがとうございました!
WBCでも大きく取り上げられた牧田投手のバント捕球シーンは、球児たちの心も揺さぶりました。来シーズンでの活躍も応援しております。

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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