須崎vs土佐
好リードが光った主将1番の大原史也(3年)
須崎、44年ぶり決勝進出支えた「頭脳と工夫」
「119キロ」。まるでボクシング・WBA世界バンタム級王者である亀田大毅のように、1つのアウトを奪うごとに雄たけびを上げる須崎のエース。名付けて「須崎乃闘犬」中川大蔵がこの日、スコアボードにあるスピードガン数値に灯した最速である。それでも彼はわずか3安打、失点も3回表に1番・岡林嵩介(遊撃手・3年)に与えた犠飛による1点のみと土佐を終始翻弄したのである。
ただ、単に119キロのストレートを投げるだけでは相手を抑えられるはずはない。その裏には中川大の女房役。主将の大原史也(3年)の好アシストがあった。大原は土佐攻略法についてこう語る。
「相手は左打者が多いので、内角を突いて打たせて取るリードを。そして、中川(大)はいつも初回に苦しんでいるので、そこをしっかり抑えていこうと心がけました。僕にとって彼は球種が多い分リードしやすいですし、ゆるいカーブを入れてから低めのストレートへの緩急、制球力もよかった。今日は一番よかったと思います」。
この2種類の他にもスライダー、カットボールを交えつつ、しかもチェンジアップを使わないという心憎いリード見せた大原。マスクの裏は銀縁メガネ「進学コースにいて、成績もよい」(須藤真一郎部長)頭脳派ぶりと、「この冬に急成長しているし、チームのムードメーカー」(井上稔監督)勢いをそのままグラウンドで表してくれた。
そのムードは「普段からピッチングマシンを並べ、ストレートと変化球をどちらがくるか判らない形での練習に取り組んでいる」(井上監督)打線にも伝播した。6回裏には1番・大原の安打を足がかりに2死2塁から4番の岩佐涼太(三塁手・3年)が「得意なインコース」ストレートを狙い打つ二塁打。続く吉田翔馬(左翼手・3年)もアウトコースストレートをライトに流して鮮やかに逆転。この2点は中川・大原のバッテリーにとっても十分な援護となり、須崎はなんと44年ぶりに春季県大会の決勝進出を果たしたのである。
試合後、指揮官は「大変なことが起こってしまった。予想していなかった」と44年ぶりの快挙を表現したが、そうではなく、彼らは大変なことを自ら起こしたのである。スピードを頭脳で、選手16名の少人数も練習の工夫でカバーすれば、こんな快挙も起こりうる。これもまた高校野球の醍醐味である。
(文=寺下友徳)