Column

県立小禄高等学校(沖縄)

2010.06.18

「野球部訪問」

第4回 県立小禄高等学校 
2010年06月18日

加盟校4132校。
全国の高野連の加盟校数である。(2009年5月時点)
様々な環境の下、全国でこれだけの高校で球児達が毎日白球を追いかけている。
今月から新企画・「野球部訪問」は、全国津々浦々、様々な野球部を訪問。
頑張っている球児や指導者の高校野球への取り組みを紹介していく。
第4回は沖縄の小禄高校です。

県立小禄高校

【高良監督】

 モノレール奥武山公園駅から徒歩5分の住宅街にある沖縄県立小禄高校。今年4月開場の新球場・沖縄セルラースタジアム那覇もすぐそばだ。
学校は1962年に琉球政府立として認可され、63年4月に那覇市で首里高校、那覇高校に次ぐ3番目の普通高校として開校。文武両道の下、2009年3月末現在で2万1829人の卒業生を輩出している伝統校だ。
グランドはサッカー部と共用。レフト側には常にサッカー部がいるため、打撃練習では右打ちを練習するなど工夫している。

 野球部は長らく低迷していたが、06年にOBである高良雅秀監督が就任して力をつけた。

07年夏にはエース・當間一生の力投で宮古工、北部農、本部豊見城と破って36年ぶりのベスト4に進出。準決勝ではサヨナラで敗れたものの、甲子園に出場した興南相手に延長10回0対1の好ゲームを展開した。

 その後も07年秋に8強、09年秋に8強と実績を残し、今春は36年ぶりの決勝進出を果たして準優勝。秋、春と連続して沖縄尚学を破っただけでなく、センバツに出場した2校とのチャレンジマッチでも嘉手納興南に連勝。大物食いで今夏の第一シードを手にした。大物食いの秘密について高良監督は「昔は沖水(沖縄水産)というだけでエラーしたけど、今はレギュラーが出ているかは別として常日頃から練習試合をしているのが大きいでしょう。1年生大会でも沖縄尚学に勝っていますからね」と言う。

【小禄高校投手陣】

 そんな小禄の持ち味は明るさとのびのびさ。高良監督が選手を呼ぶ際もニックネームだ。今春の決勝で対戦した糸満の上原忠監督も小禄についてこう話す。
小禄には勢いと元気があった。失敗しても何とも思っていない。盗塁失敗で『ナイストライ』と言ってハイタッチしているんですから。勝負には勝ったけど、選手にはあれを目指そうなという話をした。素晴らしいチームですよ」。
 ときには高良監督の話も聞かず、「オレ、無視か?」と監督を苦笑いさせるナイン。彼らが勢いに乗ると、とんでもない力を発揮する。興南とのチャレンジマッチでも2度リードを奪われながら、14安打を浴びせて打ち勝った。

興南とやるのを楽しみにしてました。島袋が出て来ないのはわかっていたし、打ちあいと思っていましたから」。(高良監督)
センバツ優勝校と戦えるうれしさを存分に身体で表した結果が勝利につながった。

 高良監督は「なんちゃって第1シード」と笑うが、小禄ナインにとって、第1シードを取った意味は大きかった。沖縄代表として松山遠征の権利を得られたからだ。沖縄からは、普段なかなか遠征に出られない。上のレベルで戦うためのいいシュミュレーションになった。また、松山遠征の際は松山商を見学。松山商は30人程度しか部員がいなかったが、99人いる自分たちよりも声が出ていることに圧倒された。さらに、ゴミひとつ落ちていないグランド、整理整頓され、整然と並べられた道具を生で見たことは大きかった。
「アップから見させていただいたんですが、あれこそ高校野球の原点。見てきた選手たちが、何を学び、何を感じたか。それをどう後輩に残すかですね。考え方が変わらないと結果は変わらない。選手たちには『過去の最高は準優勝だよ』と言っています」。(高良監督)

 現チームは12月から3月にかけての冬場、生活面で怒られっぱなしだった。勉強をしっかりやれ、そうじをしっかりやれ、部室をきれいにしろと言われ続けていた。
「秋の大会までは野球だけやっていました。部室も汚かったですし……。それからは、生活面から変えていこうということで、授業中に寝ないとか、ゴミ拾いをするとか当たり前のことを徹底してきました」。(主将・大城陽平)
 それだけに、松山商のようなホンモノを見たことは大いに刺激になった。

【小禄高校打者陣】

 チームを引っ張るのは主将の大城。監督の考えを最も理解し、周りに指示が出せる。ベンチを盛り上げ、雰囲気を作るようにしたのも大城の案だ。
「自分たちはスーパースターがいない。部員は多いですけど、99人がバラバラでは強くない。全員野球でやらないと勝てないんです。悪い流れのときに声を出したら相手も何で?と思うし、ピンチになればなるほどタイムを取って平常心を心がけています」。
そんな雰囲気に乗せられ、春の快進撃の要因となったのは投手陣。140キロ台の速球を持つ宜野座嗣峻、緩急と制球力を武器に打たせて取る田中裕士、制球力と独特なフォームで勝負する2年生左腕の山里悠也の投手3本柱だ。

興南が優勝したのはうれしかったけど、悔しかった。夏は腕を振って、力強い球、気持ちでストレートを投げていきたい」(宜野座)
「自分は変化球とコントロールが持ち味。左バッターへの2シームは打たれない自信があります。気持ちで負けないように、自分の投球ができるようにしたい」。(田中)

夏は第1シード。初めて追われる立場になるが、気負いはない。高良監督は言う。
「僕は監督としては負けっぱなし。周りには勝てない監督と言っています(笑)でも、選手たちには『勝ちたい気持ちはお前たち以上だ』と言っています」。
勝ちたい気持ちはナインも同じ。選手を代表して、大城がこう締めくくった。
「夏勝たないと、春は勢いだけだったと思われる。それが一番悔しい。自分のために(送りバントで)送って死ぬやつもいる。その期待に応えたい。ベンチ外の3年生の分まで、彼らが期待しているプレーをしたいです。夏はどこも必死。興南を倒したといっても、自分たちはチャレンジャー。ぶつかっていくのが持ち味なので、みんなでつぶしていきたい」。
“なんちゃって”から“ホンモノ”へ――。
 第1シードの挑戦者が、夏、再び沖縄に旋風を巻き起こす。

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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