PL学園vs都島工
松浦淳史(PL学園)
史上最弱チームと呼ばれても、夢へ向かって
「PL学園史上最弱のチーム」
昨秋、河野有道監督から何度か聞いた言葉だ。その苦しいチームが秋の近畿大会で8強まで進出。しかし選抜大会のキップは〝補欠校〝という残念な形でもたらされた。
あれから半年。この日大阪府予選の3回戦を戦ったPL学園。1回戦は近大泉州に5対4、2回戦は大阪星光学院を11対3で破っての進出。
昨秋のあの粘って負けない姿を思い返すと、強くなくても一冬超えて伸びしろはあるのではないか?そんな気もしていた。
試合前の河野監督に伺うと、「(今のチーム状態は)全然ダメ。よくあれで秋に近畿大会まで行けたよ」と厳しい評価は変わらない。
この3回戦、先発のマウンドは2年生左腕の松浦淳史。実はこの日の投手は他にエースナンバーを背負う大川悟(3年)くらいで、橋本純一、友谷俊輝(ともに3年)の2投手が体調不良でベンチを外れていたのである。「投手がいない」と河野監督が話す事態でもあった。
その大事な立ち上がり。松浦は二死から二塁打を浴びたものの、無失点で切り抜けた。身長183センチ、長いリーチからしなりのあるフォームで、打者に取ってはリリースポイントが見えにくいというのが松浦の特徴だ。
2回裏、PLは押し出し四球で先制すると、2番三好宏紀(3年)の三塁打など打者一巡の攻撃で6点を奪う。楽になった松浦は、時折危なっかしい場面も見受けられたが、無失点と好投。
打線は3回に連打と犠牲フライで1点、6回には三好から3連続長短打で2点を追加して試合を決めた。
6回コールドにできる10点目を取りきれない、守りでは少しの綻びなど、随所に粗さも見られたが、負けない術を講じようとする姿がこの日のPLからは垣間見られた。
「まだまだ。投打に1枚から2枚足りない」と河野監督は厳しい表情を崩さないが、キャッチャーの深海翼主将と、ファーストの岡本仁(ともに3年)が甲高い声でチームを鼓舞する姿は「3年生が何とかしたい」という気持ちがにじみ出ていたようにも感じる。
深海翼主将(PL学園)
この春、指揮官が「楽しみ」と期待する1年生がたくさん入部したPL。この日の試合後も、雨天練習場では2人の投手が投球練習を行っていた。現在ベンチに入っている選手にとっては大きな刺激となっているのは深海主将の言葉からも間違いない。当然、夏になると1年生が入って、ベンチに残れない選手が出てくるかもしれない。
しかし「3年生全員がベンチ入りして戦いたい」と主将は上級生の気持ちを代弁する。
「お前たちにも夢があるんだろ」。
河野監督は秋の大会中に選手に語りかけた。
最弱の世代、力勝負では履正社や大阪桐蔭にはどうしても劣る。でも、力だけではないのが野球のおもしろさであり、高校野球の魅力である。
3年生にとってあと1回しかない甲子園のチャンス。傍目には強く見えなくても、負けない野球。「繋ぎの意識と守り」が今のPLの生命線。
秋に大敗した大阪桐蔭や、選抜出場を逃した試合の智辯和歌山などを「常に意識して練習している」と話してくれた深海主将。生命線さえ守れれば、力勝負で叶わないライバルにも一泡吹かせることができるかも知れない。
勝負はやってみないとわからない。夢に向かって、まずはこの春を貪欲に勝ちにいく。
(文=松倉雄太)