市立和歌山vs県立和歌山
投打にわたって見せたエースの存在感
ゲームセットの瞬間、市和歌山のエース・上賢志郎(3年)はセンター後方にくるりと背を向け、軽くガッツポーズして見せた。
「最後に連打を浴びてどうなるかと思いましたが、完封できたのは良かったです。反省点はありますが、勝ててホッとしています」と、汗をぬぐいながら上は笑顔をこぼした。
1回表、1番の森屋佑亮(2年)を空振り三振に仕留めた後、「今日はいけそうやな」と自らの調子に手ごたえを掴んだはずだった。
だが、2番高井佑希(3年)に2球目をきれいにライトへ運ばれると、3番の岡崎真宏(2年)に犠打を決められ二死二塁。すると、4番の岡本有史(3年)に甘く入ったカーブをライト前へ打たれた。
ライトの好返球で二塁走者は本塁タッチアウトとなり失点は免れたものの、あまりにも劇的な幕開けとなった初回のマウンドは、以降の上のピッチングのカンフル剤になった。
3回以降は、持ち前のストレートが走った。
速球対策をしてきた県和歌山打線は初球から果敢にバットを振ってきたが、「ストレートを狙われても、ストレートで押せないのは逃げているだけ」とプライドで勝負した。
4回から5回にかけては三者連続三振を奪うなど、3回から7回までは1人も走者を出さなかった。
しかし、ずっと三振を奪い続けてきたわけではない。
8回には失策で走者を出してしまい、押せ押せムードの県和歌山ベンチが活気づいてきた。
得点差は2。
ほんの1球で流れが変わる場合もある。代打で登場した西田修平(1年)に対し、冷静に変化球で詰まらせ内野ゴロで併殺に斬って取った。
「今までは、オレがオレがと1人で勝負していたけれど、後ろを信頼して投げられるようになった。みんなで野球を出来るようになったと思います」と真鍋忠嗣監督もエースの成長を認めていた。
打っても、攻撃の突破口を開いた。
2回、先頭打者として打席に立った上は、チーム初安打となるライト前ヒットを放ち、先制のホームも踏んだ。
4番としての仕事もきっちり果たしたが「うちの打線で一番信頼されているのは、(3番の)浜田(健太=3年)。自分はチャンスで打てたらいいと思っています。だから、初回のヒットよりも5回と7回のチャンスでフライを打ち上げてしまったことの方が反省点です」と、謙そんした。
それでも10個の三振を奪い、相手が狙っていても唸るようなストレートで押し切ったピッチングは見る者を圧巻させた。幸先の良いスタートを切ったが、投打で存在感を見せたエースは、最後に表情を引き締めて言った。
「昨夏は、最終的には決勝でバテてしまって(智辯和歌山に)負けてしまった。今年はそういう風には夏を終わらせたくないんです。最後は笑って、夏を終わらせたい」
スターティングメンバー
【県立和歌山】 (主将)小畑敦裕
9森屋佑亮
7高井勇希
4岡崎真宏
3岡本有史
5中谷朋哉
2岡本竹史
1緒方宏志郎
6東昇生
8岡田侑起
【市立和歌山】
6赤尾巧
3林悠史 (主将)
7浜田健太
1上賢志郎
9杉野滉樹
8川本諒介
2井上貴博
5道利大海
4村原大介
(文=沢井史)