試合レポート

智辯学園vs桜井

2012.07.22

20人の選手全員出場

奈良桜井が昨夏の決勝に続き、智弁学園に敗れた。
投打に力の差を見せつけられての完敗だった。
「力がないから負けるわけであって、智弁学園は良いチームだった」と森島伸晃監督は淡々と振り返った。

とはいえ、今年の奈良桜井は、ある意味において、昨夏に続いて一つの目的は達成した。
それは、ベンチ入り 20人の選手全員が大会を通して出場したことだ。

意外に思われるかもしれないが、これが結構、できないチームが多い。
奈良桜井は、それも、 2年連続で果たしたのである
「勝つことも目指すけど、こういうこともやる」と森島監督は語る。

1回戦の奈良高田戦では、3点リードの 9回裏二死二、三塁から一度に7人の選手を交代させた。
選手の多くを試合に出場させるために、大差や敗色濃厚の展開で起用することは頻繁にあるが、森島監督は僅差のリードでも厭わない。
指揮官が肚を据えて、采配を振るっている。
リードしている展開で、選手を交代させて負けたとしても、森島監督は「それが実力」と堂々と構えていられるのだ。自分への批判から逃れる、負けることを恐れぬ姿勢は、人の上に立つ人間として、あるべき姿勢を指し示している。


とはいえ、奈良桜井が全員出場を果たすために、勝利を棄てているわけではない。

この日の試合でも、9回を迎えて1対7のビハインドから代打攻勢を仕掛けたが、試合を棄ててはいなかった。
キャプテンの岩倉昂佑は言う。
「誰が出ていたとかは関係ないんです。ベンチは誰も諦めていなかったし、最後に代打攻勢で1点を取れたのは良かった」

奈良桜井ナインには全てを受け入れるという気持ちが浸透している。
大会1か月前に一時はメンバーから漏れ、最後にショートのレギュラーをつかんだ片平郁也は、
「メンバーを外された時は、悔しい気持ちもありましたけど、自分はメンバーに入れても、入れなくても、残りの高校生活を一生懸命やるだけだと思っていました」と言う。
片平は、1回戦でスタメン出場し、ウイニングボールをさばいた。

人生は甘くない。だが、投げ出してはいけないのだ。

昨年に引き続いて、智弁学園の壁を超えることはなかった。
しかし、彼らは2年連続して20人の選手がグラウンドに立つということをやってのけた。
なかなかできたことではない。全国でも稀有ではないだろうか。
「勝った負けたで終わってしまったら、何もつながってこない」との森島監督の言葉に呼応するかのように、片平は三年間をこう振り返る。

「高校野球は僕にとって、やってきたことの確認でした。大会を終えて、自分たちのやってきたことが間違いではないと分かりました。自分を信じてやり続ければ結果は出てくる。ここで終わりじゃなくて、やってきたことをこれからの人生で続けたいと思います」

昨年は準優勝、今年は2回戦敗退。それでもひとつの目的は達成した。

「勝つことだけでなく、両方やる」

森島監督の言葉にしたためられたこの偉大なる目標―――。
奈良桜井なら、達成してくれそうな気がする。

(文=氏原英明)

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

関連記事

応援メッセージを投稿

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

RANKING

人気記事

2024.06.30

明徳義塾・馬淵監督が閉校する母校のために記念試合を企画! 明徳フルメンバーが参加「いつかは母校の指導をしてみたかった」

2024.06.30

突然の病で右半身が麻痺した「天才野球少年」が迎える最後の夏 あきらめなかった甲子園出場の夢、「代打の一打席でもいいから……」

2024.06.29

北海は道内29連勝なるか、東海大札幌VS札幌日大の強豪対決も、30日に札幌支部で代表決定戦【2024夏の甲子園】

2024.06.29

激戦区・愛知が開幕!ノーシードから4連覇狙う愛工大名電が17得点の圧勝発進、大府、愛知産大三河も初戦を突破【2024夏の甲子園】

2024.06.29

稚内大谷と士別翔雲がともにコールド勝ちで代表決定戦へ【2024夏の甲子園】

2024.06.28

元高校球児が動作解析アプリ「ForceSense」をリリース! 自分とプロ選手との比較も可能に!「データの”可視化”だけでなく”活用”を」

2024.06.28

最下位、優勝、チーム崩壊……波乱万丈のプロ野球人生を送った阪神V戦士「野球指導者となって伝えたいこと」

2024.06.26

【北北海道】北見支部では春全道4強の遠軽が登場、クラーク記念国際と好勝負演じた力見せる【2024夏の甲子園】

2024.06.24

愛媛の組み合わせ決定!今春優勝の松山商・大西主将は「どのチームと闘っても自信をもってベストなゲームをしたい」シード4校主将が意気込み語る!

2024.06.27

高知・土佐高校に大型サイド右腕現る! 186cm酒井晶央が35年ぶりに名門を聖地へ導く!

2024.06.28

元高校球児が動作解析アプリ「ForceSense」をリリース! 自分とプロ選手との比較も可能に!「データの”可視化”だけでなく”活用”を」

2024.06.28

最下位、優勝、チーム崩壊……波乱万丈のプロ野球人生を送った阪神V戦士「野球指導者となって伝えたいこと」

2024.05.31

【24年夏全国地方大会シード校一覧】現在34地区が決定、佐賀では佐賀北、唐津商、有田工、龍谷がシードに

2024.06.26

【北北海道】北見支部では春全道4強の遠軽が登場、クラーク記念国際と好勝負演じた力見せる【2024夏の甲子園】

2024.06.24

愛媛の組み合わせ決定!今春優勝の松山商・大西主将は「どのチームと闘っても自信をもってベストなゲームをしたい」シード4校主将が意気込み語る!