試合レポート

龍谷大平安vs桐生第一

2014.04.01

空気が変わった瞬間

 ゲームの中で空気が変わる瞬間がある。この試合で言えば、二つあった。

 まずは6回表の桐生第一の攻撃。
 2点をリードされていた龍谷大平安は、5回まで投げ続けてきた先発の元氏玲仁(2年)に代え、エースナンバーの中田竜次(3年)を送った。グラウンド整備直後の大事な守り。中田は、7番久保田晋司(2年)から始まる桐生第一の下位打線を、三者凡退に打ち取った。
 「中田がバシッと抑えてくれた」と原田英彦監督は、大事な1イニングを抑えた背番号『1』を讃えた。

 二つ目の空気が変わった瞬間。それは7回裏の龍谷大平安の攻撃前の出来事だ。
 桐生第一はその前の6回裏、二死から三番手としてマウンドに上がった左サイドスローの高野祥司(3年)が、打者一人を三振に取って役目を終えた。

 いや、終えたはずだった。

 7回表の攻撃中、次の守りからマウンドに上がる予定のエース・山田知輝(3年)がブルペンで準備を始める。攻撃が終わり、山田がマウンドに向かおうとした時、先に立っていたのは、役目を終えたはずの高野だった。

 チーム全員にエースへの交代を徹底できていなかったベンチワークのミス。相手の龍谷大平安ベンチがそう捉えることができたほどの、バタバタ感がグラウンドの空気を変えたのだ。
 「その瞬間は見えていました」と河合泰聖主将(3年)は話す。そして、前日に山田対策を講じてきた龍谷大平安サイドにとっては、「いよいよきたな」(河合主将)という雰囲気で、山田の投球練習を凝視していた。

 そこまでの空気が変わった瞬間を逃さなかったのが、1番徳本健太朗(3年)から始まる7回の打線。ヒットで出塁した徳本がすかさず盗塁を決めると、その後は内野ゴロエラー、二塁ベースへの牽制球でカバーが遅れてセンターへボールが抜けるなど、桐生第一に信じられないミスが続出した。

 結局、4番河合のサードゴロがフィルダースチョイスになる間と、5番中口大地(3年)の犠牲フライで、龍谷大平安がついに追いつき、延長戦の末にサヨナラゲームで激闘をものにした。

 「これだけ苦しいゲームをものにできたのは大きい」。試合後の龍谷大平安の選手は、ほとんどがこの言葉を口にした。


 一方で桐生第一にとっては、4点を先制し、継投も見事に決まっていた。特に先発の東宮万夫(3年)の後に登板した、背番号『15』の右腕・糸井雅人(2年)は、原田監督が「まったくの予想外」と話すほどのサプライズ起用。登録上は内野手で、チーム資料によると、昨秋は公式戦と練習試合での登板がなく、今大会直前の甲子園練習でもマウンドに上がらなかった。
 広島新庄戦などでブルペンに行く姿を見て、ビックリされた人もいるかもしれない。龍谷大平安陣営も、ブルペンしか情報がなく、「良いスライダーを投げる。攻撃のリズムが狂った」(原田監督)と首をひねるほどだった。
 それだけに、7回裏が始まる前の場面が悔やまれる。やはり選手の交代情報は、チーム全員が共有していないと、良いベンチワークができない。たった一人でも、「あれっ」と思ってしまうと、途端に相手に付け入る隙を与えてしかねないのだ。

 最後にサヨナラの場面にも振れておきたい。
 10回裏にヒットで出塁した河合が、ワイルドピッチと送りバントで三塁まで進んだ。桐生第一の山田と、小野田凱(2年)のバッテリーは、次の6番常仁志(3年)の打席でスクイズを警戒。2ストライクと追い込んだにも関わらず、あえて外角へ外すウエストボールで、カウントを悪くし、結局歩かせてしまった。
 三塁から見ていた河合は、「相手のベンチを見たら、外すというサインが出ているように見えた。自分達は打つチームなので、あそこでのスクイズは多分ないと思った。相手がスクイズを警戒してくれるほど、自分達にとってはチャンスだと思いました」と話す。

 その後、一死満塁となって、結末はサヨナラワイルドピッチ。今大会を沸かせた2年生バッテリーにとっては、痛恨の1球となってしまった。

(文=松倉雄太

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

関連記事

応援メッセージを投稿

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

RANKING

人気記事

2024.06.25

昨夏甲子園16強・北海の卒業生進路紹介!元巨人外野手の息子らが中央大、147キロ右腕は社会人へ

2024.06.26

【南北海道】函館支部では函館大有斗が9回サヨナラ、函館大谷はコールド勝ち【2024夏の甲子園】

2024.06.25

【南北海道】室蘭支部では駒大苫小牧が北海道栄に完封勝ち、次戦の相手は苫小牧中央【2024夏の甲子園】

2024.06.26

【北北海道】旭川支部予選で、旭川実の151キロ右腕・田中が6回完全、11連続を含む15奪三振の快投【2024夏の甲子園】

2024.06.26

低反発バットなど関係ない!“飛距離モンスター”マーティン・キャメロン(東海大札幌) に大爆発の予感!

2024.06.24

愛媛の組み合わせ決定!今春優勝の松山商・大西主将は「どのチームと闘っても自信をもってベストなゲームをしたい」シード4校主将が意気込み語る!

2024.06.21

なぜ高校野球の新たなリーグ戦は拡大し続けているのか?『チームのために個人がいる』ではなく『個人の成長のためにチームがある』~野球指導者・阪長友仁のビジョン後編~【『新しい高校野球のかたち』を考えるvol.7】

2024.06.23

プロ注目の大阪桐蔭・徳丸が大学生相手に決勝アーチ!直近3週間5本塁打と量産態勢!2年ぶり夏甲子園へ強打者の勢い止まらず!

2024.06.23

大阪桐蔭が名門・日体大に1勝1分け! スター選手たちが快投・豪快弾・猛打賞! スーパー1年生もスタメン出場 【交流試合】

2024.06.21

沖縄大会が22日開幕!八重山商工、宮古、小禄が登場、開幕戦での白星一番乗りは?【2024夏の甲子園】

2024.05.31

【24年夏全国地方大会シード校一覧】現在34地区が決定、佐賀では佐賀北、唐津商、有田工、龍谷がシードに

2024.06.24

愛媛の組み合わせ決定!今春優勝の松山商・大西主将は「どのチームと闘っても自信をもってベストなゲームをしたい」シード4校主将が意気込み語る!

2024.06.11

【24年夏全国地方大会シード校一覧】現在41地区が決定、長崎、高知、新潟、大分などでシードが決まる〈6月10日〉

2024.06.21

なぜ高校野球の新たなリーグ戦は拡大し続けているのか?『チームのために個人がいる』ではなく『個人の成長のためにチームがある』~野球指導者・阪長友仁のビジョン後編~【『新しい高校野球のかたち』を考えるvol.7】

2024.06.14

【福岡】九州国際大付は小倉商、東海大福岡は小倉南、春日は大川樟風、福岡大大濠は輝翔館と対戦【2024夏の甲子園】