花咲徳栄vs白岡
初戦敗退から這い上がった花咲徳栄、4年ぶり3回目の埼玉夏王者に!
雨の予報とは裏腹に、[stadium]埼玉県大宮公園野球場[/stadium]には、夏の強烈な日射しが降り注ぎ、スタンドの楽器をギラギラと照らしている。今年の埼玉大会、決勝に進んだのは花咲徳栄と白岡。
花咲徳栄は昨夏、開幕試合でまさかの敗北を喫し、短い夏を終えた。それが一転。悔しさをバネにチームを鍛え上げ、圧倒的な攻撃力を手に今年は遂に決勝まで進出した。
一方、川越南、松伏、東京成徳大深谷、川口、桶川、埼玉栄、そして浦和学院と、錚々たるチームを倒し、ここまできたノーシードの白岡。大会前、ここまで来ると本気で信じたファンは多くはなかったはずだ。
この日も「大物食い」はあるのか期待する埼玉の野球ファンが大勢詰めかけ、球場はさながら白岡のホームグラウンドのよう。シートノックに白岡の選手が姿を見せると、球場は拍手喝采に包まれた。
試合はそんな「ホーム」の白岡が先制する。
1回、一死から2番・堀口 湧矢が四球で出塁すると、続く3番・伊藤 圭祐がレフトオーバーのツーベースを放ち、一死二、三塁とチャンスを作り出す。いきなりの白岡のチャンスに盛り上がる球場。そんな空気の中、花咲徳栄先発・鎌倉 知也は4番・矢部 陸哉を三振に取る。だが二死となった後、5番・平塚 裕樹の打順でワイルドピッチ。白岡が1点を先制する。
アウェイと言っていい会場で先制を許す。苦しい展開となった花咲徳栄だったが、そこは百戦錬磨のチーム。落ち着いていた。
2回裏、エラーで出塁の5番・里見 治紀を一塁に置き、二死一塁から8番・鎌倉 知也がタイムリーツーベースで同点に追いつく。さらに二死二、三塁から1番・久々宇 竜也がレフトへタイムリーを放ち1点。花咲徳栄が逆転に成功。さらに3回裏にも二死一、三塁から6番・楠本 晃希のタイムリーで1点を追加する。
花咲徳栄は、投げては先発の鎌倉が粘りの投球。ヒットを許すものの、バックの堅い守りにも助けられ、2回以降ピンチらしいピンチを作らない。
試合が落ち着いてきたように見えた6回裏、花咲徳栄がまたもや試合を動かす。エラーで出塁した7番・笹谷 拓海を送りバント、さらにヒットとエラーで三塁まで進め、1番・久々宇 竜也が犠牲フライを放ちまず1点。さらに2番・太田 幸成もタイムリーで続きこの回2点目、5対1と白岡を突き放す。
ここで白岡は、この試合も粘りのピッチングを続けてきた谷中 壮樹から背番号1・永島 一樹にチェンジ。永島は後続をファーストライナーに打ち取り、さらなる失点を抑える。
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そして回は進み9回表、白岡の攻撃。4点差を何とか挽回したい白岡は、3番・伊藤、4番・矢部が連打で出塁し、無死一二塁。球場は再びミラクルを見たいと一気に盛り上がる。5番・平塚の当たりは花咲徳栄ショート・岡﨑 大輔の冷静なファインプレーでゲッツーに。平塚は一塁にヘッドスライディングを試みるもセーフにならず、地面をたたいて悔しがる。花咲徳栄はここでマウンドに集まり、円陣を組み互いを落ち着けあう。お互い、勝ちたいという気持ちは同じ。意地と意地のぶつかり合いが展開される。
緊張感が高まる二死三塁から6番・谷中 壮樹がライト前へタイムリーで1点を返す。さらに7番・永島 一樹もヒットで続き二死一二塁。8番・大木 翼も四球を選び、二死満塁に。
ここで花咲徳栄はここまで力投の鎌倉から高橋 昂也に投手交代。投球練習で高橋が1球投げる毎に、歓声ともどよめきとも聞こえる大きな声が球場を飛び交う。
そんな異様な状況の中、打席に立つのは、9番・荒井 魁斗。2ボール1ストライクから、ファウルで2球粘った後の、6球目だった。ストライク。最後は、見逃しの三振。ストライクのコールを聞き、荒井は膝から崩れ落ち、しばらく立ち上がることができなかった。
その後ろで、歓喜に沸く花咲徳栄ナインたち。苦しい試合を制し、4年ぶり3回目の夏制覇を成し遂げた喜びに、感情を爆発させていた。
この試合、白岡のヒットの数は花咲徳栄の6を上回る二桁10本。しかし、エラーの数は、花咲徳栄1に対し、白岡は6つ。浦和学院戦で見せた堅守が鳴りを潜めてしまった形だ。
県営大宮の完全ホームという状況に浮足立ってしまったのは、どちらかというと白岡の方だったのかもしれない。「あと一つ」というプレッシャーはそれだけ大きい。
だが、新チーム発足以来勝てなかったチームが手にした準優勝という結果は誇っていい。ここで得た自信に悔しさをプラスして次を目指す。甲子園を勝ち取ってきたチームは、みんなそうしてきたはずだ。
一方、昨夏の初戦敗退から這い上がり、長い夏を手にした花咲徳栄。正直、難しい試合だったはずだ。ここまでアウェイの状況で県大会を戦う、という経験はなかなか無いだろう。そんな難しい試合を、切り抜け勝ち抜いた。その力は本物のはず。全国の舞台で、そのプレッシャーに打ち勝った力を思う存分発揮してもらいたい。
(文=青木 有実子)
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