東海大相模vs花咲徳栄
東海大相模の二枚看板は強みになるのか、それとも迷いになるのか?
杉崎成輝のサヨナラ安打で勝利した東海大相模だが…
東海大相模はスカウトが注目するような左右の本格派を擁している。それが強みになるのか、投手起用の迷いになるのか、そんなことを考えさせられる試合だった。
先発の右腕・吉田凌は伝家の宝刀、縦変化のスライダーで1、2回、花咲徳栄打線から3三振を奪っていた。しかし、スライダーをさらに効果的に見せるはずのストレートにキレがない。スピードは最速143キロを計測しているので初戦の聖光学院戦より速いが、それがまったく速く見えない。
ストレートを速く見せられる投手は例外なくステップする足がグーッと前に伸びて、それに導かれて上半身が前に出てくる。しかし今の吉田はステップと同時に腕を振っているように見える。腕を振っている時間が短いほどボールはいきなりピュッと出てくるように見える。つまり速く見える。しかし今の吉田は下半身が使えていない分、腕を振る時間が長くなり、ボールが速く見えない。打者からすれば球筋が見やすい。当然、球持ちは短くなり、上半身主導のフォームはクセも出やすい。
2回は得点こそされなかったが岡崎大輔、里見治紀にストレートをヒットにされ、3回には太田幸成、岡崎、大瀧愛斗にスライダーを3連打され2失点、4回には笹谷拓海、上村康太にもスライダーを打たれ(自らの暴投で1失点)、久々宇竜也には135キロのストレートを打たれて降板した。投げる球がないというノックアウトぶりである。
決勝までのことを考えれば準決勝の関東一戦は吉田を先発させたいが、勝ちを優先すれば小笠原 慎之介の連投がベストな選択である。しかし、肩のケアという今日的な問題もあり、小笠原に連投はさせたくない。「吉田というドラフト候補がいるじゃないか」という“外野の声”もある。つまり、門馬敬治監督の“投手起用の覚悟”に水をさす要素が非常に多い。左右の二枚看板を擁していることが東海大相模にとっての難題だなと思った次第である。
花咲徳栄戦に戻ると、リリーフした小笠原 慎之介はよくなかった。縦変化のスライダーとカーブ、さらに120キロ台後半のチェンジアップなど変化球のキレが素晴らしく、ストレートの最速は149キロ。1つ1つの球を見ればため息が出るほど素晴らしいが、それらがアンサンブルを奏でない。その最大の理由はストレートが高めに浮いていること。被安打は5回3分の1を投げて2だが、打たれたのはいずれもストレート。変化球勝負の伏線で投げたストレートを打たれている、そんなふうに見えた。
この2安打された8回表の攻防が最大のヤマ場だった。3対2とリードした花咲徳栄は3番岡崎大輔が2球目のストレートを内野安打、4番大瀧愛斗が4球目のストレートをライト前にヒットして、ノーアウト一、二塁という絶好のチャンスを迎える。
5番里見治紀がバントして二、三塁、6番楠本晃希が2球目145キロのストレートを捉え、2者を迎え入れたと思ったが、これがレフトの正面で走者は動けないまま。そして東海大相模ベンチは7番笹谷拓海を敬遠して満塁策を選択。次の高橋昂也は花咲徳栄の切り札と言ってもいい投手なので代打は出せない。この敬遠策がこの試合の勝負を分けた(満塁で打席に立った高橋は2球目を投手ゴロ)。
東海大相模は8回に高橋のボークで三進した走者を外野フライで還すという効率のよさで同点に追いつき、9回はエラーで出塁した千野啓二郎を3番杉崎成輝のレフト越えの二塁打で還し、サヨナラ勝ちをした。
準決勝の相手・関東一は、劣勢を跳ね返すオコエ瑠偉の2ランホームランで勝ち上がったチーム。勢いのついた同士の戦いの勝敗を分けるポイントは、投手起用にありそうだ。
(文=小関順二)