西尾東vs享栄
夏の経験が自信となって生きた西尾東、享栄に競り勝ちベスト8進出
享栄・三島安貴君
この夏、東愛知大会で決勝進出。愛産大三河に敗れはしたものの、甲子園まであと一つというところまで迫った西尾東。ここ10年未満の中で、夏の愛知大会で3度ベスト4以上の進出を果たしている、上位常連校と言っていい。しかも、毎年、夏はほとんど3年生で戦いながら、新チームがスタートしても、西三河地区予選でしっかりと結果を出して、県大会進出を果たしている。
寺澤康明監督は、「下級生たちは、夏の大会で先輩たちが戦っていく姿をスタンドから応援しながら、そこで何かを学んでくれているのだと思います。だから、新チームで経験の少ない選手たちであっても、チームとしてはまとまって戦っていかれています」と、胸を張る。また、地域の公立校という立場でもあり、選手たちも取り立てて中学時代に実績があって注目されていたという存在でもない。部員の構成としても、7割以上がいわゆる中学の部活での野球部出身者で、硬式のクラブチーム出身者の方が少ない。
そうした、いわば普通の野球が好きで一生懸命に部活動として取り組んでいきたいという高校生が、進学先として西尾東という学校を選択してきているのだ。そして、そうした形で集まってきた生徒を寺澤監督が、熱い思いで指導をしていく。それが、西尾東というチームの特徴として確立されてきている。だから、試合を重ねていきながら花が咲き、実を結んでいくのである。
この秋の新チームも、例年と同じ形でスタートしていったが、西三河地区大会では夏に敗れた愛産大三河に対して二次予選トーナメントの初戦で雪辱を果たすなどして、1位校として県大会進出を果たした。それだけでも見事と言っていいであろうが、県大会でもクジのいたずらか愛産大三河と当り、またしても勝利してここまで進出してきた。
これに対する享栄はこの夏、西愛知大会ベスト4だったが、その試合をもってベテラン柴垣旭延前監督が勇退し、中京大中京で全国制覇に導いた実績のある大藤敏行監督が就任。その船出の秋となったのだが、就任早々に大藤監督が骨折するというアクシデントがあり、名古屋地区予選ではベンチ入りできなかったということで、文字通りこの県大会がニュー享栄の船出となった。
そんな両校の対戦は、秋の大会の好チーム同士の対戦らしくロースコアの投手戦の展開で、期待通りの好試合となった。
西尾東・山田紘太郎君
初回に享栄は3四球と暴投で先制するが、西尾東の山田君は大崩れすることなく、初回の失点も1点止まり。無安打で1失点だったが、西尾東は早い回で追いつけたのも大きかった。
2回、西尾東は享栄の大器と言われている1年生左腕の上田君に対して、死球と5番大谷君の右前打とバントで一死二三塁。ここで伊吹君がカウント1-1からスクイズを決めて同点とした。さらに4回、先頭の大谷君が右越三塁打。2者が三振で倒れたものの、代打永友君が四球で二死一三塁となったところで9番山田君の当たりは三遊間深いところ内野安打となって三走がホームイン。結果的にはこれが決勝点となる。
わずか1点のリードだったが、西尾東の山田君は落ち着いた投球だった。7~9回はいずれも先頭打者を出したものの、何とか抑えていった。9回などは無死一塁のバントで、飛球を落球したものの、捕手の加藤君が冷静に処理して二塁で刺した。こうした冷静なプレーで、西尾東は私学4強の一角を崩してのベスト8入りとなった。
寺澤監督は、「こんなこともあるんですねぇ」と言いながらも、「初回が1失点で追われたので、早い回で追いついて食い下がっていかれれば何とかなるかなと思っていました。2回をしっかり3人で抑えられたのも大きかった」と、山田君の踏ん張りを称えていたが、その山田君は指を少し怪我していたので、正直どこまで投げられるのかなという不安もあったというが、それはまったくの杞憂に終わった。
一方、享栄の大藤監督は「野球は難しいねぇ」と開口一番。そして、「新チーム作りの一番大事なところで監督が(骨折で入院していて)チームを見られなかったということが一番いかんね。上田も力みがあったかなぁ、投球がバラついていた」と反省の弁。それでも、5回からリリーフした三島安貴君に関しては「点をやらないという気持ちが表れたいい投球だった」と評価していた。「みんな、一生懸命に練習する子たちだで、そのいいところを監督がしっかり引き出していってやらないかん」と、自戒も含めて語っていた。
一冬超えた、享栄の姿に期待したいところでもある。
(文=手束 仁)