Column

未必の故意(みひつのこい)~ダメかもしれないと思っていながら、実行してしまう~

2019.01.23


未必の故意(みひつのこい)

 2007年2月に首都圏から居を四国地区に移し12年目。「さすらいの四国探題」の異名を背に四国球界でのホットな話題や、文化的お話、さらに風光明媚な写真なども交え、四国の「今」をお伝えしている寺下友徳氏のコラム「四国発」。

 第31回ではJリーグチェアマン、日本サッカー協会キャプテンを歴任された川淵 三郎・日本リップリーグ連携機構会長のtwitterツイートから大きな波紋を呼んだ「某高校野球部、ユニフォーム姿で有料の同校ダンス同好会による発表会の壇上に立つ」を、法律用語の視点から迫ります。

指導者・教育者にルールを破る「未必の故意」は許されない

未必の故意(みひつのこい)~ダメかもしれないと思っていながら、実行してしまう~ | 高校野球ドットコム
香川県三豊市の山上から臨む四国連山

 突然ですが私、これでも一応「亜細亜大学法学部法律学科」卒業生です。とはいえ、大学時代は4年間、応援指導部に所属していたため、平日は明治神宮球場にいる時間が多く、徐々に成績も下がり……いまや六法全書は実家でホコリをかぶっています。

 

 しかし、それでもいくつかの法律用語は私の脳裏に今でも残っています。その中の1つが刑法における「未必の故意」(みひつのこい)。高校生向けに簡単に説明すると「犯罪が自分から起こそうとはしていないけど、自分がしたことで犯罪が発生するかもしれないと思いながら、あえて実行すること」。具体的に言えば昨今話題になっている「危険運転」、「あおり運転したら煽られた車に乗っている人が事故起こして死ぬかもしれないなあ。でも、あおっちゃえ!」がこれにあたります。

 では、なぜこの説明を冒頭にしたのか。1月15日・Jリーグチェアマン、日本サッカー協会キャプテンを歴任された川淵 三郎・日本リップリーグ連携機構会長のtwitterツイートにより波紋を呼んだ以下の事件のことです。

*正確性を期すため、そのまま川淵氏のツイートを引用させて頂きます。

高知県で全く馬鹿げた話を聞いて驚いた。甲子園に出場した野球部員が、同じ指導者の下でその高校のダンス部の活動に参加したことを高野連が咎めていると。入場料をとる発表会に出場した事が問題だという事で。高校ダンス部として普通のことでは?野球部員が他の部活動をしてはいけないということなの?

 校名はあえて記しませんが、もちろん、この指導者は私もよく存じ上げている方。そしてダンス部の柔軟性やリズム感を重視するトレーニング要素を野球部のトレーニングに採り入れ、甲子園でも飛躍的な効果を上げたことも知っています。よって、甲子園にも臨時でチアリーディングも務めてくれた「恩人」とも言えるダンス部にお礼の思いを伝えたい野球部員たち(3年生)の行動も自然のものでしょう。

 しかし、問題は「入場料をとる発表会」という状況で「見学」ではなく「参加」したこと。部員たちは「規定を知らなかった」過失で済まされますが、指導者は当然高野連の規定を知りえる、いや知っていなければいけない立場。「参加」することで起こりえる処分や1・2年生への影響は、計り知れないものです。

 この例のみならず、このオフ時期に生じてしまった不祥事の多くは指導者側が自らを律し、ないしは部員たちを制止すれば防げたもの。時代が進み、環境が複雑化、個別化する中でのコントロールが難しい状況なのは重々理解できますが、それでもルールを遵守し戦うスポーツを指導する立場としてルールを破る「未必の故意」は許されない。指導者・教育者の皆さんも清悦ながら、その1点だけは心に刻んで頂きたいと思います。

[page_break: 議論は尽くされるべき、しかし「ルール破り」での話題づくりは否]

議論は尽くされるべき、しかし「ルール破り」での話題づくりは否

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大事なのはルールを破ったことではなく守ることです!

 それとは別に、当初はサッカーライターとしてこの業界に足を踏み入れた私にJリーグ創設という形で生きるきっかけを与えて頂いた川淵氏の「野球部が他の部活をしてはいけないの?」という提案にはおおいに頷ける部分があります。

 特にいまや生徒自体が減少の一途をたどる四国にとってサッカー部をはじめとする「助っ人」は、最後の夏を単独で参加するためには絶対に欠かせない要素。また、松山商では数年前まで引退した野球部3年生たちのうち数人が全国高校ラグビー愛媛県大会にラグビー部の助っ人として参加していました。

 実は私自身も他競技を取材することで野球取材に採り入れている要素も数多くあります。今後、少子化の時代に入る上で、さらにスポーツマンとしても、人間としても引き出しを広げるためにも運動部に限らず文化部含めた他競技に参加する際に「大会・発表会が有料でも許可を得れば参加できる」規定設置議論は尽くされてしかるべきだと感じています。

 ただ再度記しますが、その議論を尽くすためには「ルール遵守」ありき。ルールを破ることで話題となり、変革の端緒となるのは最近の世間におけるトレンドではありますが、高校の部活動の一環である「高校野球」は、その流れには乗ってほしくないし、乗ってはいけない。今回は非常に固い話になりしたが、私は強くそう思います。

(文・寺下 友徳

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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