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なぜ宮城大弥は「琉球ジジイ」と呼ばれた?興南の名将が見抜いた宮城の投手としての本質、凄み【前編】

2021.12.16

 今年のペナントレースはセ・パ両リーグともに優秀な新人で溢れた。パ・リーグはこの男が新人王に選ばれた。それがオリックスの宮城 大弥投手だ。

 興南(沖縄)時代は2度の甲子園に出場。さらにU-18代表にも選出され、2019年NO.1左腕と評された。新人王対象となる今年は13勝、防御率2.51と、いずれもエースの山本 由伸投手(都城高出身)に次ぐ成績だった。入団後から人気も急上昇し、人気プレイヤーとなった宮城。高校時代を知る、興南の我喜屋 優監督に話を聞いた。

入学時からずば抜けていた完成度の高さ

なぜ宮城大弥は「琉球ジジイ」と呼ばれた?興南の名将が見抜いた宮城の投手としての本質、凄み【前編】 | 高校野球ドットコム
我喜屋 優監督(興南)、高校時代の宮城 大弥(興南)

 宜野湾ポニー時代から評判だった。同チームは県外問わず、甲子園で活躍する球児を送り出し、今年では星稜のマーガード真偉輝投手(2年)、興南の主将・禰覇 盛太郎外野手(2年)など活躍する選手が多い。我喜屋監督は高校野球で活躍する可能性を持った逸材を視察するために、宜野湾ポニーの練習グラウンドに訪れていたが、その時は宮城が目当てではなかった。

「たまたま宮城を見に行ったわけではないですが、宜野湾ポニーの練習に行った時に『この子は面白いよ』という話から見てみたら、大きくはなかったのですが、球のキレはいいし、コントロールもまとまっているなと。それに加えて、実戦的な選手だなと感じました。そういうことで、縁があって興南高校に入ってもらいました」

 我喜屋監督は宮城を見たとき「社会人で続けられる選手」と感じたという。

「プロとなると先の話になりますが、私自身、社会人野球(大昭和製紙、大昭和製紙北海道)を経験していたので、そういう経験から、社会人野球でプレーできる選手だと思っていました。何より良かったのは野球小僧という部分です」

 宜野湾ポニーの指導者も同じ評価をしていたが、我喜屋監督なりの視点で解説する。

「いわゆる野球小僧ですね。寝ても覚めても、暮れても明けても野球。そして体が強くて、なかなか故障しない。ピッチャーとして活躍できる要素がありました。

 ピッチャーは球筋もコントロールも必要だけど、ハート部分でならしていた。1年生から投げても3年生のような落ち着いたマウンドさばきでした。ピンチでもチャンスになっても表情は変わらない子でした」

 宮城に限らず、教え子について「野球小僧だった」と振り返るプロ野球選手の恩師は多い。我喜屋監督は宮城のどういう部分に「野球小僧」を感じたのか。

「見ててわかるんですよ。バッティングにしてもピッチングにしても、集中もするけれども、やっぱり楽しんでるなと感じます。他の選手もみんな前向きに頑張っているんですけど、とにかくピッチングもそうだったし、バッティングもそうだし、期待に応えてくれるような、頼りになる堂々とした野球を常にやっていたのが僕が認めるところです」

 我喜屋監督は宮城の完成度の高さを評価し、1年生から抜擢。その内容は沖縄大会を勝ち抜き、甲子園に行ける実力はあると実感していた。
「うちは島袋洋奨(元ソフトバンク、現興南コーチ)とか、比屋根雅也(立教大卒)とか甲子園に出場した左投手がいます。彼らを基準にすれば、ここまで到達すれば、相手のチームと戦えるという目安を持っていますから、宮城に関しても1年生だからといって特別にビックリするというのは無かったです」

[page_break:甲子園出場から「琉球ジジイ」が誕生]

甲子園出場から「琉球ジジイ」が誕生

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高校時代の宮城 大弥(興南)

 我喜屋監督の目論見通り、決勝戦の未来工科戦で先発した1年生宮城は1失点完投、さらに13奪三振を記録する快投で甲子園出場を果たした。

 高校時代のキャッチフレーズ「琉球ジジイ」が誕生したのも決勝戦後だった。彗星のごとく現れたスーパー1年生の活躍。報道陣から「久々の琉球王子の出現ですね」と質問された我喜屋監督はその表現を否定した。
「どこがですか?と(笑)『ベテランみたいなジジイじゃないですか』と話しました。僕は琉球ジジイ、ジジイと言っていたのですが、彼はベテランのようなマウンドさばきで、初々しい、若々しいというよりも、こいつベテランじゃないかなという、落ち着いて任せられる選手でした。
ジジイ=ベテランというイメージ。若々しくて初々しいイメージはなかったので、周りは1年生が出たもんですから琉球王子と言っていたのですが、僕は毎日付き合ってるから『王子じゃないよ』と。王様はオーバーだけど、落ち着いて投げてるベテラン的な表現です」

 我喜屋監督の表現は、かなり的を得たものだと感じるプロ野球ファンはかなり多いだろう。高卒1年目から初勝利を挙げ、今年もオープン戦から着々と結果を残し、SNSでは、プロ野球ファンの多くが「高卒2年目の投手とは思えない」というつぶやきが見られ、実際にパ・リーグ関連の情報を発信する動画チャンネルでは、宮城の老獪な投球ぶりをまとめ、「ベテラン」をテーマにして取り上げている。我喜屋監督は中学時代から場数を踏んできたことによって培ったものだと評する。

 「高校1年生はどちらかというと経験が浅いのですが、彼は中学から硬式をやって県外に出て沖縄以外の世界大会にも出て相当経験を積んでいましたし、それが興南に来ても活かされていました。やっぱり練習はしていましたし、根をあげるような顔は一回も見たことないし、興南の練習でさらに体作りもできて、バランスのいい体になっていきました」

 宮城と同じくU-15代表、中学日本代表となった投手で、ここまで投球が上手い投手は見たことがない。この投球センスはまさに天性のもので、宮城にしかない独自の感覚があったのだろう。

(記事:河嶋 宗一

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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