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【WBC代表選手の恩師が語る】「赤ちゃん」だった高橋奎二(ヤクルト)の大成をもたらした「天性」の明るさ

2023.02.10

 3月に行われるWBCの日本代表に選出された高橋 奎二(ヤクルト)。右足を大きく上げるダイナミックなフォームが特徴的な左腕で、昨年には8勝を挙げてチームのリーグ連覇に貢献した。また、プライベートでは元AKB48で歌手の板野友美と2021年1月に結婚したことでも知られている。

 高校時代は京都の名門・龍谷大平安で主戦投手として活躍。2年春には甲子園で優勝も経験している。今回は当時の高橋を知る原田英彦監督に取材を行い、これまでのサクセスストーリーを語ってもらった。

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英語訳の抜粋記事はこちらから

WBC Keiji Takahashi’s mentor thanks Yakult manager Takatsu for his generous support.

入学当初は普通の投球フォームだった

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高橋奎二投手(ヤクルト)

 原田監督が高橋を初めて見たのは中学3年生の時。当時の高橋は亀岡市立東輝中の軟式野球部に所属していた。

 投げている姿をそこまで見たわけではなかったが、「自分で打って、走ってというタイプで、楽しそうに野球をする子だというのが第一印象でした。平安に入りたい意思があったと思うんですよね。だから、僕が見て、『その代わり、覚悟して来いよ』と言ったのを覚えています」と振り返る。

 そして、縁あって龍谷大平安に入学。「体の線が細かったです。ただ、バッティングに関してもそうですし、リズム感があって、センスがあるなと思いました」というのが入学時の評価だった。

 入学当初は今のようなフォームではなく、普通のフォームだったという。変化のきっかけは指の怪我でボールを投げられなかった数ヶ月にあった。

「その間に柔軟性を自分で磨いてきたんです。体がすごく柔らかくなって、いつの間にか足が顔の辺りまで上がるようになっていました。その辺りから体の使い方がすごく変わってきましたね」

 龍谷大平安といえば、アップで柔軟性を鍛えることで知られているが、高橋はそれによって成長した代表例だ。成長の裏には高橋自身の性格もあったと原田監督は語る。

「基本的に彼の場合は非常に明るい。それと素直さ。嫌な顔をしたのは見たことないです。ここが伸びる一番の要素ですよね」

 厳しい練習にも前向きに取り組める。それが高橋の強みだった。その性格は試合面でも強さを発揮されたという。

「やっぱり、ここという大きな試合に強いですよ。これは彼の持っている性格です。乗りやすい性格。僕らも近畿大会から乗せました。ブルペンでピッチングしている時も『奎二、かっこええな!』と言って送り出したんですけど、そこにグッと乗っかってくるんですよね。これは天性の明るさと心の強さがあったと思います」

 1年秋の京都大会ではベンチ外だったが、同期で当時の主戦だった元氏 玲仁が怪我をしたこともあり、原田監督は急遽、近畿大会で高橋を先発に抜擢。1回戦の近江戦で8回3分の2を無失点に抑えると、その後も好投を続けて優勝に大きく貢献した。

 翌春の甲子園でも投手陣の一角としてフル回転。センバツ初優勝の原動力となった。「甲子園でも楽しいと言って投げていました」と原田監督が言うように乗りやすい性格が大舞台で強みを発揮する要因になったようだ。

 また、原田監督は選手にニックネームをつけることで知られている。その中で高橋は「赤ちゃん」と呼ばれていた。原田監督はその理由をこう語ってくれた。

「幼かったんですよね。フニャフニャしていましたから。ニコニコしていたので、可愛さ半分ですよ。最初は怪我をしていたこともあったので、『本当に赤ん坊やな』と言って、そんな思いで赤ちゃんとニックネームをつけました」

[page_break:プロで大成ができたのは高津監督のおかげ]

プロで大成ができたのは高津監督のおかげ

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原田英彦監督

 そんな高橋も最上級生になると、エースとして頼もしい存在に。最後の夏を前に状態を上げていたが、6月の練習試合で胸部に打球が直撃して、本調子で夏の京都大会を迎えることができなかった。

 3年夏は京都大会4回戦で敗退。4季連続の甲子園出場とはならなかった。

 それでも甲子園で結果を残し、将来性豊かな高橋をプロのスカウトは放ってはなかった。本人の希望もあり、プロ志望届を提出。「行くならば3位以内」と考えていた原田監督の思惑通り、ヤクルトから3位で指名される。

「喜んでいましたね。3位ということで、彼が『よっしゃ!プロに行ける』という確信を持ったと思います」とドラフト会議当日の様子を教えてくれた。

 ヤクルトの担当スカウトは阿部健太スカウト。2001年夏に松山商の2年生エースとして甲子園に出場し、原田監督率いる平安と対戦した実績もある。かつてのライバルが教え子の担当スカウトになったことにただならぬ縁を感じていた。

 プロの世界に進んだ高橋だが、すぐに結果を残せたわけではなかった。1軍での初登板と初勝利は3年目の2018年。5年目を終えた時点では通算6勝に留まっていた。それでも2021年の途中から先発ローテーションに定着すると、日本シリーズでは第2戦目でプロ初完投、初完封を上げ、優秀選手賞を受賞。6年目にして、1軍に欠かせない戦力となった。

 活躍するまでに少し時間がかかった印象もあるが、原田監督は予定通りの成長曲線を描いていると感じているようだ。

「高校時代は体が細かった。筋肉もそんなについてなかったし、僕はもう高校時代は柔軟性で良いと思っていました。上に行ってから数年で筋力を付けて、体を強くする。それで腕が振れてくると思っていましたが、その通りにやってくれました。そこまで一軍の監督の高津臣吾さんがまず二軍監督で長い目で見てくれた。そして、一軍に上がる時にまた高津さんが一軍の監督になった。これも巡り会いですよね。彼にとっては非常にラッキー。非常に良い道を進んでいると思います。これも高津監督が手厚く彼を育ててくれたおかげだと思います」

 高津監督は高橋が2年目の2017年に二軍監督に就任。2020年から一軍監督となり、時間を共にすることが多かった。こうしたタイミングの良さも高橋の活躍の追い風となったことだろう。

 また、原田監督は結婚時のエピソードについても語ってくれた。オフシーズンに学校へ報告に来たが、「おどおどしながら話していて、彼らしくないと思ったんですよ。これはただ事じゃないなというのはすぐにわかりました」と感づいたという。

 話を進めていくと、有名芸能人と結婚することが判明。特にそういった噂を聞いていなかっただけに流石の原田監督も驚いたようだ。ブレイク前の一若手選手が国民的アイドルと結ばれたのも高橋の性格が大きかったのではないかと原田監督は見ている。

「ともちゃんって、長く芸能界にいて、やっぱり人気もあるじゃないですか。みんな、会ったら、引くはずなんですよ。そこを彼は『あっ、ともちゃんや!僕、よう知ってるで!』みたいな感じで入っていったと思います。あれは彼の性格なんですよ。でも恐らく、他の男性はそうして入っていかない。ともちゃんも新鮮だったと思います。だから惹かれるものがあった。これは僕の想像ですけどね。可愛いですよ。動じないというか、自然のままに入っていける子なので」

 公私ともに充実し、世間からも注目される存在となった高橋。益々の飛躍が期待される教え子に原田監督は次のようにエールを送ってくれた。

「本当に順調に来ていますし、僕らは凄く嬉しい。平安高校卒でプロ野球選手になってくれて、活躍してくれて、話題になっている。彼の中では非常にプレッシャーはかかると思います。そのプレッシャーを天性の明るさと素直さで跳ねのけて、今後、益々の活躍を期待しておりますので、一生懸命応援したいと思います」

(記事=馬場 遼

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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