かかとの脂肪がつぶれる?ファットパッド症候群
かかとにある脂肪体がつぶれてしまうと衝撃吸収機能が低下して痛みを引き起こす
私たちのかかとには「自前の」衝撃吸収機構が存在します。踵骨(しょうこつ)と皮膚の間にある踵部脂肪体(しょうぶしぼうたい:ヒールファッドパッド)は約2cmほどの厚みを持ち、コラーゲン性の隔壁をもつ袋の中にある脂肪の粒が踵骨を保護するように動いています。これによって歩行時などにかかるかかとへの衝撃を和らげることができます。ところが、かかとに繰り返し衝撃が加わり続けると、踵部脂肪体の力学的な安定性が失われ、床面と硬い踵骨との間でやわらかい踵部脂肪体がはさまれ、剪断力(せんだんりょく:すべりやズレを起こす力)が発生して、かかとに痛みを生じるようになります。これをファッドパッド症候群と呼びます。
かかとの痛みとしては、足底腱膜炎(そくていけんまくえん)や踵骨(しょうこつ)骨端症(シーバー病)と呼ばれるスポーツ傷害がありますが、かかとの脂肪が原因となって起こるファッドパッド症候群では、かかとの後ろ側から中央にかけて痛い、起床時一歩目が痛い、歩行時ではかかとをつく時が痛いといった特徴があります。また幅広の靴を履いているとかかとに「遊び」が生まれて足部が外反しやすくなり、踵部脂肪体が靴幅いっぱいに拡がって厚みを失って、物理的に衝撃吸収機能を果たせないということにもなります。ファッドパッド症候群では踵の骨が簡単に指で触れるほどに脂肪体が薄くなっていることもその特徴として挙げられます。
ファッドパッド症候群に対するテーピング
痛みがあるときは患部の炎症を抑えるために、まず応急手当としてのアイシングを行うようにしましょう。また物理的な刺激もなるべく加えないようにすることが望ましいのですが、かといってかかとを浮かせた状態で歩行やプレーなどを行うと代償運動によってアキレス腱や足底腱膜、ふくらはぎなどを痛めてしまうことにもなるので注意が必要です。市販の衝撃吸収材を使うという選択肢もありますが、もともとの脂肪体が薄くなっているために痛みがあまり改善しないケースも見られます。このような場合は横に拡がった踵部脂肪体の厚みを取り戻すためにテーピングなどでかかとの側面から挟み込むように巻いていくと、本来の衝撃吸収機能が回復することが期待できます。
ファッドパッド症候群はスポーツ選手にも見られるスポーツ傷害の一つであり、かかとの痛みが続くとプレーにも支障を及ぼすようになります。ファッドパッド症候群の特徴的なものが見られる場合は、衝撃吸収機能をサポートするようなテーピングなどを用いることも検討してみましょう。また競技復帰直後は、アスファルトなどの硬い路面を長時間走ることはなるべく避けて、かかとに強い衝撃を与えないようにすることも大切です。
参考書籍)腰痛・下肢痛のための靴選びガイド/田中尚喜著/日本医事新報社
文:西村 典子
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