上肢のトレーニングとパフォーマンス【セルフコンディションニングお役立ち情報】
上肢のトレーニングはしなやかな動作を妨げないように
野球のパフォーマンスアップに欠かせないパワーを養うためには、下肢筋力の強化が欠かせません。一方で体全体を使って投球動作やバッティング動作などを行うことから体幹、そして上肢のトレーニングもバランス良く行う必要があります。ここでは上肢のトレーニングを行うときにパフォーマンスを妨げないようにするために心がけたいことなどをまとめておきます。
「押す」動作と「引く」動作をバランス良く
上肢に限らずですが、鍛える側の筋肉(主動筋:しゅどうきん)と相反する拮抗筋(きっこうきん:主動筋に対して反対の動きを担う筋肉)はバランス良く鍛えることが大切です。上半身のトレーニングでも一般的なベンチプレスは主に大胸筋を鍛える種目ですが、大胸筋ばかりを集中的に鍛えすぎてしまうと、肩が丸まって肩関節の位置そのものが前方に移動する傾向が見られるようになります。ベンチプレスを行ったら、その拮抗筋である背筋群のトレーニング(ローイング動作など)もあわせて行うことが、大胸筋のストレッチにもなります。大胸筋の強さによって肩の位置が前方へと引っ張られないようにバランス良く鍛えるようにしましょう。
筋肉の盛り上がりが動きの邪魔になることも
肩の強さは肩周辺部の筋力というよりも、下半身の力を下から上へと伝達させ、その中で力のロスを最小限にしながら指先からボールへと伝えていく一連の動作にあります。肩関節は腕を振るたびに大きな回旋の力が加わるので、三角筋など肩の表面上の筋肉よりもむしろ、その内部にある腱板筋群(けんばん:インナーマッスルのこと)を強化し、上腕骨頭が体から離れないように安定させることがより大切です。ショルダープレスなど肩から上に突き上げるように挙上する動作を繰り返すと、三角筋を中心に鍛えることが可能ですが、肩が盛り上がるほどに筋肉がついてしまうと「投球を行う時にうまく肩がまわらない」「肩が上がりきらないまま投げてしまう」といったことが起こります。肩の動きが悪くなるとケガをするリスクが高まるため、肩周辺部のトレーニングを行う際はスムーズな動作の妨げにならないよう、常にチェックしながら行うようにしましょう。
腕が重くなると肩に負担がかかる
腕の筋肉を鍛えようと上腕二頭筋を中心にアームカールを行う選手がいるかもしれませんが、上腕部が鍛えられると筋肉の重さによって腕の重量が増えることも理解しておきましょう。片腕の重さは体重の6%程度とも言われ、体重60kgの選手では約3.6kgに相当します(個人差があります)。投球動作を繰り返すたびにこの重さが肩関節の回旋動作に作用するのですが、重量が増してしまうと、投球数が増えるにつれて腕が上がりにくくなったり、肩への負担が増大したりといったことが考えられます。背筋や上腕三頭筋など腕の振りにブレーキをかける筋肉や、腕が体から離れないようにするための腱板筋群を鍛えて、ケガのリスクを抑えることもあわせて行うようにしましょう。
文:西村 典子
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