Column

疲労骨折を未然に防ぐ【セルフコンディションニングお役立ち情報】

2023.12.15


こんにちは、アスレティックトレーナーの西村典子です。

オフシーズンに入り、本格的に体力強化をメインとした練習を行っているチームも多いと思います。この時期だからこそ、技術練習とは違ったトレーニングプログラムは新鮮でもあり、そして体力的なキツさを感じることがあるかもしれませんね。一方で、運動強度や運動量、運動時間などが急激に増えると、筋力や柔軟性不足などが一因となって痛みを伴うようなことも起こります。今回は繰り返される負荷によって起こる疲労骨折について、そのメカニズムや対策、栄養面でのサポートなどについて考えてみたいと思います。

冬のトレーニングやランニングは運動量の急増に気をつけよう

疲労骨折は慢性的なスポーツ障害

皆さんは「疲労骨折」という言葉を聞いたことはありますか。これは練習後に感じる疲労という意味ではなく、何度も繰り返される負荷によって小さな損傷が積み重なり、時間の経過とともに骨折に至ってしまうというものであり、針金などが何度も曲げ伸ばしをしている間にやがて折れてしまう金属疲労という言葉に由来しています。

スポーツの場面では運動強度や運動量、運動時間など急に増えたり、継続的に物理的な負荷がかかり続けたりすると、疲労骨折を起こすことがあります。これはアクシデントによって起こる骨折とは発生のメカニズムが異なるため、疲労骨折に至るまでに見られる兆候や練習量のコントロール、その他の要因などに対処することで疲労骨折を予防することができると考えられます。一方で成長段階にある高校生は大人に比べて骨が柔らかいため、疲労骨折を起こしやすい年代であるということも理解しておく必要があります。

「痛いけれどプレーできる」は危険信号

疲労骨折を疑う症状としては運動時痛と圧痛(押すと痛みが出る)があり、中には痛みのある部分がやや腫れていたり、ふくらんでいるように見えたりします。最初のうちは練習を始めて負荷がかかると痛みが生じるようになり、練習が終わると軽くなる、もしくは消失することが多いといわれています。この状態のまま痛みを我慢して練習を続けていると、やがては練習後にも痛みが続くようになり、しばらくすると練習前から練習後までずっと痛みがあるという状態になってしまいます。練習が十分にできなくなってから病院に行くと、実は疲労骨折だったというケースも少なくありません。また初期段階ではレントゲンでも確認できないことが多いため、発見することがむずかしいスポーツ障害の一つでもあります。体を動かしているときに関節以外の部位に痛みを感じる場合には疲労骨折を考える必要があるでしょう。

カルシウムとともにタンパク質の摂取も心がけよう

野球選手によく見られる疲労骨折と対処法

野球選手に見られる代表的な疲労骨折を挙げます。

《腰椎分離症》
成長期の選手によく見られる腰椎の疲労骨折です。骨が軟らかい時期にジャンプ動作やスイング動作を過度に繰り返すと、腰椎の後方部分に亀裂が生じて痛みを生じるようになります。腰を反らす動作で痛みが強くなりやすいことがその特徴として挙げられます。

《肋骨の疲労骨折》
ひねり動作を繰り返すことによって起こる肋骨(あばら骨)の疲労骨折です。スイング動作や投球動作によって脇腹付近に鈍痛を感じたり、咳やくしゃみなどによっても痛みを感じたりします。

《脛骨・中足骨の疲労骨折》
ランニングによって下肢に衝撃が加わり続けると脛の痛み(いわゆるシンスプリント)を生じ、そのまま我慢して練習に参加し続けているとやがて骨に亀裂が生じて骨折してしまいます。足の甲部分に痛みがあり、それが長引いている場合は中足骨の疲労骨折の可能性があります。どちらも痛みを我慢しながら走り続けてしまうことが原因の一つと考えられます。

疲労骨折が疑われる場合は、まずそれをもたらす要因を取り除くことから始めましょう。同じ動作を繰り返して痛みを生じたのであれば、その動作を一定期間(軽度であれば1~2ヶ月程度)行わないようにすると、しだいに痛みは軽減されていくことが多いようです。しかし再び同じ部位に外力が繰り返し加わると再発することも多いため、正しいフォームを習得することや、特定の部位のみに負担のかかる動作を避け、ランニングやトレーニング内容に変化をもたせることが大切です。また運動強度や運動量はもちろんですが、体の使い方やフォーム、練習場所や地面の硬さなど環境要因によっても疲労骨折を生じる場合がありますので、こうした要因を一つずつ確認することも必要となるでしょう。

骨折とカルシウムの関係

骨折から競技復帰を目指すために、栄養面でのサポートとしてまず挙げられるのがカルシウムの摂取ではないでしょうか。骨密度は骨の強さを示す指標として用いられますが、これは骨に存在するカルシウムなどのミネラル分がどの程度あるかという単位面積あたりの骨塩量を示しています。骨密度が高まれば物理的な負荷に耐えられる強い骨を再生することにつながるため、カルシウムは骨の再生に必要不可欠なミネラルの一つと言えるでしょう。

ただしカルシウム以外の栄養素も骨の再生に欠かせないものです。骨はコラーゲン線維という「土台」の上にカルシウムという「セメント」で塗り固められたものであるため、土台となるコラーゲンを作り出すための栄養素も必要ということになります。コラーゲンはタンパク質の一つであるため、栄養面からのサポートとしてはカルシウムとともにタンパク質を多く含む食事を心がけること、そして骨の再生を促すようなビタミン、ミネラル分もあわせてとることなどが競技復帰に役立ちます。さらに睡眠中には骨の成長・修復を促す成長ホルモンが分泌されるため、十分な睡眠をとることも大切です。

疲労骨折は放置しておくと、競技復帰までに時間がかかってしまうスポーツ障害です。我慢できる痛みが続く、運動後に痛みが強くなるといった兆候が見られた場合には運動を中止して、すみやかに医療機関を受診するようにしましょう。

【疲労骨折を未然に防ごう】
●疲労骨折は繰り返される外力によって起こるスポーツ障害の一つ
●大人と比べて高校生は骨が柔らかく、疲労骨折を起こしやすい年代でもある
●運動痛や圧痛が運動量とともにだんだん強くなっていくと危険信号
●野球選手によく見られる疲労骨折の部位は腰椎、肋骨、脛骨(けいこつ)など
●痛みをもたらす要因となるものを取り除くことが大事
●カルシウムやタンパク質を多く含む食事で骨折からの競技復帰をサポートしよう

文:西村 典子
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この記事の執筆者: 西村 典子

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