試合レポート

【春季愛知県大会】注目の師弟対決の決勝、享栄が中京大中京を下して8年ぶり8回目の優勝

2024.05.04


5回を2失点で抑えた享栄・上倉 直希

【トーナメント】春季愛知県大会 結果一覧

<春季愛知県高校野球大会:享栄3-2中京大中京>◇3日◇決勝◇岡崎レッドダイヤモンド球場

愛知県の高校野球に詳しい人や、古くからの中京(現・中京大中京)のファンの人にとっては、特に興味深い堪らない決勝カードになったと言っていいであろう。というのも、享栄の大藤 敏行監督と中京大中京の高橋 源一郎監督は、師弟関係にある。しかも、かつての野球の名門校で、どちらかというと厳ついというかゴツいというイメージのあった中京が、大学系列校としての意味合いを強く打ち出し現校名になりイメージ変更して、共学化へ向けていくというタイミングで監督就任したのが大藤監督だった。野球部のユニホームも筆記体で「Chukyo」に変更したりというところでもあった。そんな状況下で、甲子園もやや遠ざかっていたが、OB達からは「中京の伝統は守っていかないかん。甲子園にも出れんで、どうなっとるんだ」などとも言われていた折でもあった。

大藤監督としても、そろそろ結果を出していかないといけないだろうというところでもあった。そこへ入学してきたのが高橋 源一郎監督たちの世代で、1997年春のセンバツに久しぶりに出場を果たす。しかも、中京大中京という校名と新ユニホームの「ニュー中京」としての出場だった。

ただ、開会式の時には大藤監督は、「今までの中京ではない、違う学校と思われとるな」と感じたという。そんな中で迎えた大会だったが、スイスイと勝ち上がっていって、決勝では天理(奈良)に敗れるものの準優勝を果たす。まさに、「強い中京」に復活させた監督であり、その主将でもあったのだ。

その後、高橋監督は中京大に進み、大学でも大藤監督の後輩となり、系列校の三重のコーチなどを経て、中京大中京のコーチになる。大藤監督率いる中京大中京は2009年夏に堂林 翔太投手と磯村 嘉孝捕手(ともに広島)のバッテリーなどで全国制覇を果たす。そして、その翌年夏の甲子園を最後に、大藤監督は中京大中京監督を勇退。高橋監督が就任する。

大藤監督は、その後も学校に残っていたが、やがて要請があり同じ私学4強と言われているライバル校でもある享栄の監督に就任する。こうして、注目の師弟対決の下地ができ上がったのだった。

中京大中京は背番号10の左腕・佐藤 爽楽投手(2年)の先発。準々決勝の日本福祉大附戦では好投した。享栄の先発は、準決勝の豊川戦で9回1イニングを抑えている背番号11の上倉 直希投手(3年)。立ち上がりは、ともに先頭打者を出してしまったものの、その後は抑えて、まずは無難な滑り出しと言っていいであろうか。こうして、3回まではお互いに0が並ぶという形になった。

先に動いたのは中京大中京ベンチ。4回からマウンドには18番の沖 悠人投手(3年)を送り出した。享栄はそこを攻めて、四球と6番・仲谷 成真内野手(2年)の中前打などで1死二、三塁とする。ここで8番・杉本 純也捕手(2年)が投前に転がすスクイズ。これが野選となって、1点が入って、なおも1死一、三塁。中京大中京・高橋監督はすぐに、1番をつけた左腕・中井 遥次郎投手(3年)を投入した。その中井投手からもスクイズを決めて、享栄はこの回2点を先取した。

反撃したい中京大中京は5回、先頭の8番の中井投手自らが右前打を放つと、バントで進め、1番・山田 頼旺外野手(3年)が木のバットで中越え三塁打を放って1点差。さらに、続く松山 侑樹外野手(3年)がスクイズをしっかりと決めて同点とした。中京大中京として比較的早いタイミングで追いつけたことで、試合そのものも相手に流れを与えなかった。

こうして試合は後半に突入していく。

6回から、享栄・大藤監督は昨秋、1番をつけていたという濱上 琉碧投手(3年)を送り出し、力強い投球で抑えていく。中京大中京も中井投手が7回まで抑え、8回からは注目の193センチという長身、宮内 渉吾投手(2年)が登板。展開からは、延長戦もあり得るかなというところでもあった。

ところが、9回の攻防で決着がついた。この回、享栄は先頭の8番・杉本が中前打で出塁。主将でもあり、明るい性格の彼が出塁するとチームが盛り上がると言われているのだが、バントで進んで1死二塁。期待の パウエル キアヌ外野手(3年)には宮内投手が投げ勝ったが、続く2番・山田 陸内野手(3年)がストレートを中前にはじき返して、二塁から杉本が生還して、享栄は再びリードを奪った。

その裏も濱上が、中京大中京打線を3人で抑えて、結局、9回の1点が決勝点となって、享栄が8年ぶり8回目となる優勝を飾った。

享栄の大藤監督は、「こういう戦い方しかできないチームだからね。個々の能力は、飛び抜けた選手がいるわけではないし、それぞれがやれることをきちんとやっていく、そういう野球ですね。そんなに打てるチームではないので、送りバントの失敗がないのもよかった。投手も、今日投げた2人とも、それぞれ自分の投球をしていたのではないかな」と、しっかりとやれることをやって行った成果だということを強調していた。

師弟対決に関しては、「(享栄の監督に就任した)はじめのうちは、やはり意識もしていたけれども、今は、そんな意識はないね。母校ということよりは、強い学校の一つと気持ちが引くことなく戦っていくという意識、そういう精神面を選手たちにも伝えて、ひるまずにぶつかっていっていった結果でもあると思う」と語っていた。

高橋監督も、「もう、特別意識はしていません。それよりも、こういう舞台を一つひとつ経験していかれたことが大きい。今のチームは、経験を積んでいくことが大事なので、東海大会という舞台で戦えることも大きいと思う」と先を見据えていた。

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この記事の執筆者: 手束 仁

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