厳木vs早稲田佐賀
田中(厳木)
主将、四番、捕手の一打がチームを救った
ベスト8進出をかけ、昨夏ベスト8のメンバーが多く残る厳木。一回戦、エース川杉将司は神崎清明相手に被安打4、12奪三振の力投で勝ちあがった。一方、優勝候補佐賀商を倒し夏初勝利で勢いにのる早稲田佐賀。強打の佐賀商相手に11四死球を与えながらも、5併殺の堅守で駒を進めてきた。
厳木は打たせてとるエース中原を攻略できるか、一方早稲田佐賀は固い守りで失点をいかに抑えるか。
1点を争う接戦が予想されたゲームは意外な展開となった。
◆大黒柱
「正直、こんな展開になるとは」と思わぬ大差がついた展開に厳木山口英樹監督もそう口にした。
同地区である早稲田佐賀は良く知っている相手である。それも強豪を倒しノっているチーム。「守りもしっかりしている。エースの中原君は、1年のころから気持ちの強さは凄いと見ていた。佐賀商戦でもそれがでていた」と警戒していた。
初回、厳木は三番橋本がライト前に弾き返し出塁。すかさず二盗を決める。するとさらに三盗を試みるが、早稲田佐賀エース中原はセットポジションを長く取り、スタートを見抜いた。
中原が橋本を二三塁間に挟むが、ショート松濤の送球が大きく逸れる。ボールがファールグランドに転がる間に橋本がホームを踏み厳木が先制した。
守り勝ってきた早稲田佐賀には痛いミスが出た。
1点をもらった先発川杉将司だったが、「力みがあって調子は良くなかった」と立ち上がりからボールが高めに浮く。
2番前原を失策で出塁させると、三番加茂綜一郎にはレフトへ流し打たれ、続く中原諒太には死球を与えて満塁のピンチ。なんとか5番黒岩佑丞をファーストゴロに打ち取りこのピンチを切り抜けた。
「前半は苦しかった」。(山口英樹監督)がいうように、序盤は毎回走者を走者を三塁まで進めた。
田中(厳木)
このピンチを救ったのは、「監督の右腕の存在」と監督が最も信頼を置く主将で四番キャッチャーの田中雄大だった。
不調の川杉を「いつも通り、できることに集中しよう」と苦心のリードをみせると、5回、二死満塁のチャンスに打席が回ってくる。
「積極的にいこうと思った」。
中原の初球を叩くと打球は、左中間を深々と破り走者をすべてホームへ返すタイムリー。一気にダイヤモンドを駆け三塁打に滑り込んだ田中は、会心のガッツポーズを決めた。
「これで川杉が少し楽になるとおもった」というタイムリーは重苦しい雰囲気を振り払う貴重な三点をチームにもたらした。
「田中はこの6月に大きく成長した。主将として、四番、捕手として雰囲気がでてきた」(山口英樹監督)。
昨年は唐津南との延長15回再試合にも川杉をリードしベスト8に貢献。新チームにではキャプテンになった。
川杉という絶対的エースを擁する厳木。夏勝ち進むにはこの田中の成長が不可欠だった。
そのため、6月この田中を集中して鍛えた。約20メートルの至近距離からのノックを山口監督は浴びせ続けた。
それは二時間を超えることもあったという。
「過去この練習を乗り切った選手は必ず成長する」という特訓は、1週間続いた。
「きつかった。だけど自分が成長しないと勝てない」と田中はチームの勝利のため乗り切った。
「自信がついて集中できる。自分が大黒柱の意識をもってやっていけている」。
再三のピンチの場面を無失点で乗り切るリードをみせ、試合を一気に決める活躍をみせた田中。この主将、四番、捕手の存在が、思わぬ大差の試合へとつながった。大黒柱があるチームの強さだ。
次の戦いにむけて「いつも通りできることをやるだけ」と夏甲子園初出場へ向けてもいつも通りチームを引っ張るつもりだ。
一方、早稲田佐賀は守りのミスがことごとく失点につながり、試合の流れをつかめなかった。
打線も序盤のチャンスをつかめなかったのが大きかった。
予想外に大差がついた試合だった。勝敗をわけたのは相手のミスを見逃さず、ワンチャンスをものにした厳木の集中力だったが、その集中力には「これだけやってきた」というチームの大黒柱の自信がその集中力を生んだ。
(文=藤吉ミチオ)