京都翔英vs乙訓
監督の指示を聞く京都翔英ナイン
笑顔がもたらすもの
動きがなかった前半と対照的に、後半は動きの激しいゲームだった。
「早くにあと1本が出ていたら、もっと楽に試合が出来たと思ったのですが…。でも6回(の先制打)はデータ通り。山口がよく打ってくれたと思います。榎本もよく投げてくれました」(太田弘昭監督談)。
チャンスは京都翔英の方に多かったが、ホームがなかなか遠い。スコアボードに並べられる「0」を、ため息交じりで見つめていたのは三塁側の京都翔英サイドだった。
だが、そんな悶々とした雰囲気を飛ばす明るさがベンチにあった。守備が終わって、ベンチに戻るナインの表情がとにかく朗らかなのだ。チームを率いて6年目の太田監督、そして伊地知正喜部長はともに名門・松山商出身。母校の伝統を身上としているだけでなく、堅実な野球を掲げているのかと思いきや、「京都で勝つには機動力などで揺さぶる野球が身上」と、すかさず盗塁やヒットエンドランを試みるシーンも目立った。
4回表の守備では、難しいサードゴロを三塁の山口翔悟が体で止めて、うまくさばいて見せた。ベンチに戻ると、指揮官はぽっちゃり体型の山口のお腹をさすりながら、おどけた表情を浮かべて好プレーを称えていた。
「普段の練習はすごく厳しいので…。試合では楽しくやろうと言い合っているんです」(山口翔悟談)。
勝利に笑顔の榎本(京都翔英)
数々の伝統校がひしめく京都で、府内では負けない練習量を誇る京都翔英。伝統校仕立ての練習の緻密さ、厳しさもあり、普段は辛らつなゲキが、グラウンド中を支配している。
ベンチ前の円陣でも、攻撃を迎える前に毎イニングで指揮官の大きな声が響き渡る。その声に勝るとも劣らないナインの大きな声が、そのゲキに応える。だが、球場ではその度に白い歯がベンチからこぼれていた。
こんなシーンもあった。
7回の二死・一塁の場面で、その山口がセンターオーバーの二塁打を放った。だが、タッチアップではないかと自重した二塁走者の榎本和輝のホームインがやや遅れてしまったのだ。結果的には悠々ホームインは出来たのだが、普通だったらこの走塁は指揮官から雷を落とされてしまうだろう。
だが、指揮官は笑顔を見せながら「おい! ちゃんと走れよ!」と指を指しながら笑っていたのだ。
その指揮官のアクションに、さらに笑顔で応える榎本。
捉え方によっては「軽率だ」と言う人もいるかもしれないし、一層気を引き締めることを要することも大事かもしれないが、こういった気持ちをほぐす雰囲気も、チームを好転する空気を作る要因になるのだ。
9回の守備では2点差がありながら、一死二塁というピンチを招いたが、1年生エースは最後まで笑顔だった。
「みんな声を掛けてくれるし、ベンチも笑顔だったので。自分も最後までリラックスして投げることが出来ました」(榎本談)。
次戦ではセンバツ出場のかかった近畿大会の切符をかけ、鳥羽と対戦。
この“笑顔の野球”が、この秋大きく花開くのか。春夏通じて初の甲子園への道の第一関門を、切り開く時がついに来た。