中京大中京vs桜丘
3時間20分延長11回の壮絶な大乱戦
3年前の全国制覇が記憶に新しい中京大中京。春4回、夏は7回目の全国制覇は日本一の実績である。
ただ、それだけの名門だけに、少しでも結果が残せないと、すぐに周囲からの厳しい声も挙がってきてしまう。それもまた、名門の宿命でもあるのだけれど、全国制覇を果たした大藤敏行前監督から引き継いだ2年目の高橋源一郎監督。
昨夏は4回戦で時習館に敗退し、新チームの秋季大会は準々決勝まで進んだが、至学館にコールド負け。そして、春季大会も3回戦で愛産大工に敗退。もう一つ結果が残せていなかった。
しかも、私学4強と呼ばれているライバル校ではない、公立校や新鋭校に敗退したことでより風当たりが強かったことも確かであろう。
しかし万全の調整で挑んだ今大会、ノーシードながらやはり有力校の一つに挙げられている。
一方、今春ベスト8進出でシード校となった愛知桜丘も、ここまで順当に勝ち上がってきた。4番の水野雄平が当たっており、打線に勢いがある。
そんな愛知桜丘の機先を制するかのように中京大中京は1回、愛知桜丘の先発榊原明を攻める。四球から一死二塁とすると3番清水雄二の左中間二塁打で先制。さらに武藤将司、谷口祐太の長短打に2死球と犠牲フライでいきなり4点。さらに、4回にも濱口陽平のセンターオーバー三塁打から2点を追加して6対0。ここまでは、中京大中京のワンサイドの展開だった。
ところが、その裏に、愛知桜丘が水野の二塁打で1点返してから試合が大きく動き始めた。
5回、愛知桜丘は相手失策と小島義雅のセンター前へ弾き返して2点を返し、なおも二死一二塁という場面で、水野が叩いた打球は高めのストレートだったが、一直線でレフトスタンドに突き刺さった。一気に同点となった。
ここから、乱戦の第2章が始まった。
伊藤が続投する中京大中京に対して、愛知桜丘は7回、水野が右中間三塁打で出ると、すかさず森下雄太が左翼への犠牲フライを放ってついに逆転した。
しかし、中京大中京もそのままは引き下がらない。すぐに8回、二死一塁から4番武藤が左翼へライナーで運ぶ2ランで再逆転。さらに中京大中京は9回にも栗岡良典のライトオーバー三塁打と8番本多康紘のセンター前タイムリーで1点を追加した。これで、何とか中京大中京が逃げ切るのかと思われた。
ところがその裏、中京大中京の伊藤投手が連続四球。これが限界と見た高橋監督はここで、右サイドの西岡友哉を送り込んだ。結果的には犠牲フライと6番榊原の安打などでまたしても同点とする。
こうして、あわやコールドゲームかと思われた試合は、延長戦に突入した。
延長に入って、試合の展開が少し異なってきた。愛知桜丘のマウンドには、再び榊原が一塁から戻った。10回はお互い無安打。11回も二死となったが、1番濱口が四球で出ると、代打松本侑也がしぶとくセンター前に運び一、三塁。四球で満塁となって武藤の一打は、強い打球で相手失策を誘い、これが決勝点になった。
その裏、愛知桜丘は水野がサイクル安打となるレフト前ヒットを放ったものの後続が西岡投手に抑えられ万事休した。
5打数4安打4打点の水野は、「愛工大名電と当たって倒したい」という思いで、左投手対策をしながら振り込んできた。その成果が出たサイクルだったが、「ボクとしては塁に出て点数を取ることだけを考えていました。9回も負ける気はしませんでした」と、顔中に汗と涙を流しながら気丈に語った。
思惑通りの快勝ペースだった試合が、5回の一つのバント処理ミスから大苦戦となってしまい、それでも何とか勝ちをものにした中京大中京。
高橋監督は、「一つのミスからとんでもないことになってしまいました。だけど、こういう試合も経験しておかないと(甲子園には)行けませんから。とにかく、夏は勝つことがすべてですから」と辛勝でも納得としながらも、昨年の苦い経験もあるだけに、そのことに触れると、「正直言うと、ちょっとホッとしました」と、さすがに安堵していた。
(文=手束仁)