Interview

「お前ストーカーか?」学校サボって見に行ったキャンプで天才・前田智徳に声を掛けられて 元阪神「……F1セブン」戦士が語る猛練習の高校時代

2024.06.26


平下 晃司氏

「この人、何言っているんだろう?」
その言葉を聞いて、平下晃司氏(46)はそう思ったという。

「オレはプロにいった選手を何人も見ているけど、お前はプロに行ける実力を持っている」
宮﨑・日南学園に入学早々の平下氏に、同校監督の小川茂仁はこう告げたのだ。

調理師の資格を取って就職しよう――。プロなど全く考えてなかった平下氏はそこから変わった。近鉄、阪神、ロッテ、オリックスの4球団で活躍した俊足好打のプロ野球選手は、この言葉をきっかけに誕生したのだ。
阪神の「F1セブン」の1人としても脚光を浴びた平下氏が現役引退してから10年以上。今だからこそ話せる高校時代のエピソードを語ってくれた。

<前回を読む>「どうしたら一軍にいられますか?」阪神外野手の必死の問いかけに、闘将・星野仙一が放った衝撃の一言…「めちゃくちゃ気持ちが楽になった」

猛練習が大事

日南学園に入学した時、「とんでもないところに来てしまった」と思いました。先輩はもちろんレベルが高かったですが、自分と同学年の選手がすごかった。いきなり4番を打つバッターがいたし、熊本から来た投手はいきなり135キロは投げていました。同期には現在、日南学園の監督をしている金川豪一郎もいました。

小川監督はとにかく練習をさせる方でした。打撃が好きで「11対10で勝てばいい」という考えのもと、9割は打撃練習でしたね。1日に1000スイング以上は当たり前。手抜きがあれば、「そんなスイングで試合でやるのか?」と問い詰められました。

監督から「プロに行ける実力を持っている」と言われたときも、「自分はこんな下手くそなのになぜ?」と思いましたね。周りもみんな驚いていましたよ(笑)。それでも小川監督は「実現できるかはお前の心がけ次第だけどね」とハッパをかけられました。それで気持ちが入りましたね。同期が1000本素振りすれば、自分は1200本というように。

小川監督は選手を“乗せる”のが上手な方でした。もともと東海大で監督、大学ジャパンでもコーチをやっていたので、人脈がすごいんです。社会人でバリバリやっている選手をグラウンドに呼んできて、「俺はこんなにたくさん練習をしたんだ」と言わせるんです。僕らは高校生ですから「監督の言う通りじゃん!たくさん練習しないと!」となってしまうんですよね。とにかくキツかったですが、必死に練習をこなしていました。

高校1年生の5月に自分の父親が亡くなり、葬式が終わって寮に戻ったあと、小川監督から「今日から俺をお前の親父だと思ってくれ。不満があったら相談してくれ。その代わり、厳しくいくからな」といわれたんです。すごくうれしかったですけど……そこからめちゃくちゃ監督は厳しくなりました(笑)。

深夜3時までレジェンドは打撃練習を続けた

宮崎では毎年プロ野球のキャンプが開かれます。これも猛練習をやるための説得材料になっていました。
小川監督は「田舎者がダメなのは、プロ野球のキャンプを見て『すごい!』と思うだけで終わってしまうことだ。どんな練習をしているか、メモをとることが大事なんだ」といわれて、今だから話ができますが、授業をサボってキャンプを見に行っていたんです。

その日、プロの選手が何の練習をやったのか、ノートに書いていきます。書いているときは分からないのですが、学校に戻ってくると愕然とするんですよね。その練習量に。
そして小川監督は言います。
「プロでもこれだけ練習していることが分かったよな。プロに行きたいなら、その練習に耐えられる体力をつけるために猛練習をしないといけないじゃないか?」
そこからハードな練習が始まるんです。

ちなみに、僕が見に行ったのは猛練習で有名な広島でした。アップだけで1時間以上やっていましたからね。しかもカープには憧れていた大打者・前田智徳さんがいました。「この人みたいな打者になりたい」と思っていたので、練習はずっと前田さんを追いかけて見ていたんです。

そんなある日、前田さんに声かけられたんです。
「何やお前、ストーカーみたいに見とるやないか!何者や!」
僕は大きな声で、
「日南学園で野球やっています!」
と答えました。すると前田さんは、
「夜間練習見ていけや」
と言うんです。

夜間練習は夜8時から始まったんですけど、終わったのはなんと深夜の3時でした。
前田さんが「納得するまでは終われない」と言って……。
僕が見ている限り、前田さんはずっと快音を響かせていたんですけどね。

前田さんが「これや!」と言ったのは、インローのボール球をセンター方向に持っていったときでした。納得した一打だったようですが、「引っ張らないのか」と驚きました。当時、前田さんは天才と呼ばれていましたけど、努力の人だと思いましたね。プロの練習量を見て、自分たちはもっとやらないといけないと痛感しました。

次のページ:甲子園よりもスカウトの目に留まるほうが大事だった

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この記事の執筆者: 河嶋 宗一

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