Column

まさに別格だった。現役引退を表明した今村猛の恩師が振り返る投手としての傑出度

2021.12.28

 1人のセンバツ優勝投手が現役を引退した。その名は今村猛

 清峰(長崎)時代、2009年センバツに出場した今村は圧倒的な投球で優勝した。この優勝が公立校最後の甲子園優勝となっている。その後、今村は広島の中継ぎ投手として、通算431試合登板、115ホールドを記録している。今回は高校時代の恩師・吉田洸二監督に話を伺った。

投球術、素質ともに突き抜けていた

まさに別格だった。現役引退を表明した今村猛の恩師が振り返る投手としての傑出度 | 高校野球ドットコム
高校時代の今村猛(清峰)

 吉田監督は高校野球で投げる投手には2つのタイプがあると評する。

「ゲームを作れる投手が非常に重要で、凄いボールを投げる投手がプロにいく。甲子園で勝てる投手がドラフト上位にいくわけではないですよね」

 一発勝負の高校野球では必然的にトーナメントに強い実戦力が高い結果を残す。逆に将来的にプロを狙える才能は持っているものの、実戦力が低く、トーナメントでは結果を残しにくく、ベンチになることが多い投手もいる。吉田監督はそういう投手は大学で結果を残しやすいと語る。清峰、山梨学院のエースとなった投手は当然だが、トーナメントに勝てる実戦力が高い投手ばかりだった。今村については「両方を兼ね備えていて、どちらの能力も別格でした。今村が出た後、指導する清峰、山梨学院、そして対戦するチームにも今村ほどの投手は見たことがありません」と絶賛する。

 ただ、入学当初からずば抜けていたわけではなかった。今村は小佐々中学校時代から評判の投手だったとはいえ、吉田監督からの目から凄さを感じなかった。吉田監督は2年夏が終わってから覚醒したという。

「体重は増えたのはもちろんなのですけど、人間が変わった感じですね。秋からセンバツにかけての成長がすごかった投手でした。自分がしっかりとやらないといけない自覚が芽生えたのか、目の色が変わり、取り組みぶりが大きく変わりました。私の中でも稀な成長パターンです」

 体重は10キロも増量。2年夏に甲子園に出てきた時から大型投手であったが、高校生としては規格外の体型となり、150キロ近い速球を投げ込むまでとなった。

 センバツでは44イニングを投げて1失点。吉田監督が語るように、別格という言葉が似合いすぎる実績だ。そもそも、この実績に並ぶ投手は松坂大輔投手(横浜出身)などのスーパー投手しかいない。吉田監督の表現は決して大げさではない。

「もちろんヒットを打たれて、走者を出すことはあります。それでも、ピンチの場面、ここは点は取られていはいけない場面では、絶対に抑えるだろうという信頼感はありました」

[page_break:後輩たちの憧れに]

後輩たちの憧れに

まさに別格だった。現役引退を表明した今村猛の恩師が振り返る投手としての傑出度 | 高校野球ドットコム
山梨学院の吉田洸二監督(左)と吉田健人部長(右)

 広島からドラフト1位指名を受け、2013年、最年少でワールド・ベースボール・クラシック(WBC)代表となった。吉田監督は「高校時代から非常に完成度が高い投手ですから、あの年で日本代表になることは驚きはありません」と語る。

 今村の活躍は後輩たちにとっても大きな刺激となっている。現在の山梨学院のエース・榎谷礼央投手(2年)は吉田監督から「全国舞台でも勝てて、プロも同時に狙える才能を持った投手」と評されている。スーパーエースになることを目指す榎谷は当時の今村の映像を見ているという。

「投球を見ても凄いですし、さらに自分とはガタイからまず違うので、食べて近づけられるようになりたいです」

 今村は30歳で現役引退した。今は40歳になっても第一線でプレーする選手は多く、早すぎる引退という見方はある。今村は12年間在籍し、広島の3連覇に貢献し、WBCも経験。431試合にも登板。これ以上ないぐらい濃い野球人生を送り、実績を見れば、「別格」と評した能力は十分に発揮した。

 第二の人生でも活躍を期待したい。

(記事=河嶋 宗一

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

関連記事

応援メッセージを投稿

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

RANKING

人気記事

2024.06.22

【鹿児島】神村学園は鹿児島商と沖永良部の勝者と対戦、鹿児島実は大島と初戦で対戦<夏の甲子園県大会組み合わせ>

2024.06.22

【岐阜】県立岐阜商は高山西と対戦、同ブロックに中京<2024夏の甲子園県大会組み合わせ>

2024.06.22

南北海道室蘭支部が開幕!北海道栄、苫小牧中央がコールド発進【2024夏の甲子園】

2024.06.22

【愛媛】23日に抽選会!名門・松山商が1歩リード、済美、今治西が追う展開か<夏の甲子園県大会組み合わせ>

2024.06.22

奈良の組み合わせ決まる!天理と智辯学園が同ブロック、春秋Vチームが4強かけて激突も【2024夏の甲子園】

2024.06.21

なぜ高校野球の新たなリーグ戦は拡大し続けているのか?『チームのために個人がいる』ではなく『個人の成長のためにチームがある』~野球指導者・阪長友仁のビジョン後編~【『新しい高校野球のかたち』を考えるvol.7】

2024.06.18

今夏埼玉の注目野手18人! ドラフト1位級の花咲徳栄スラッガーを筆頭に浦和学院・昌平らに大型選手が揃う【埼玉注目野手リスト】

2024.06.18

昨夏甲子園出場の東海大星翔進路紹介!遊撃手は阪神、エースは専修大、主将はレギュラーとして大学選手権出場!

2024.06.19

夏の兵庫大会のヒーロー候補21人!報徳学園・今朝丸、神戸弘陵・村上の「151キロ右腕二人」が筆頭格!投打にタレント揃いの東洋大姫路にも注目

2024.06.18

激戦区・兵庫の組み合わせ決定!センバツ準V報徳学園は舞子と明石北の勝者と、3連覇狙う社、プロ注目右腕・槙野遥斗擁する須磨翔風など注目校の初戦は!?【2024年夏の甲子園】

2024.05.31

【24年夏全国地方大会シード校一覧】現在34地区が決定、佐賀では佐賀北、唐津商、有田工、龍谷がシードに

2024.05.25

首都2部優勝の武蔵大の新入生に浦和学院の大型左腕、左の強打者、昌平の主軸打者など埼玉の強豪校の逸材が入部!

2024.05.24

春季近畿大会注目選手17人! 智辯和歌山の大型右腕、大阪学院大高の全国トップレベル遊撃手、天理のスラッガーコンビら逸材がこぞって出場!

2024.06.21

なぜ高校野球の新たなリーグ戦は拡大し続けているのか?『チームのために個人がいる』ではなく『個人の成長のためにチームがある』~野球指導者・阪長友仁のビジョン後編~【『新しい高校野球のかたち』を考えるvol.7】

2024.05.25

【長崎】長崎北、長崎日大、創成館などが勝利<NHK杯地区予選>