二松学舎大附vs西日本短大附
大胆な変更の裏に「準備」あった秋山が完封につなげた、思い背負った大嶋
秋山正雲(二松学舎大附)
◆秋山攻略が勝敗のカギに
今大会屈指のサウスポーと評価を受けていたプロ注目・秋山 正雲を擁していた二松学舎大附。東東京大会決勝・関東一戦でも見せたような好投が甲子園でも見せることが出来るのか。その上で、打線がどれだけ援護できるかが、二松学舎大附の勝利へのポイントだった。
対する13年ぶりの夏の甲子園出場の西日本短大附も、エース・大嶋柊を中心にしながら、激戦区の福岡を勝ち抜いてきた。プロ注目左腕が相手なだけに、大量得点とは考えにくい。
秋山との投げ合いで、大嶋がどこまで粘れるか。ここがポイントに思われた一戦は、両投手同士の意地のぶつかり合いとなる。
◆再三のピンチで光った渾身の真っすぐ
二松学舎大附の秋山は初回、西日本短大附を三者凡退に抑えたが、雨の影響もあってか本調子ではない。2回も先頭に四球を出すなど、一死一、二塁とピンチを招く。
ただここは、7番・今田 塁陽、8番・蓑田 晟大からアウトを重ねて先制点は許さない。
雨が止み始めた中盤に入ると、本来のピッチングを取り戻し、球速も140キロを超えるボールが増えてきた。エンジンがかかりだしたところで、秋山らしさが出たのが6回だ。
先頭の江口 翔人に初ヒットを許すなど、一死満塁と再びピンチを招いた。失点は覚悟する場面だが、5番・山口 雄大を142キロのストレートで空振り三振に抑えて二死満塁。そして6番・穴井 秀山も得意のインコースへの真っすぐで空振り三振に斬って取り、ピンチを切り抜けた。
7回もピンチはあったものの打線が取った2点の援護を秋山がしっかりと守って9回へ。秋山は最終回に入っても140キロを超える速球を投げ込むなど、疲れを感じさせない投球で最後の打者を140キロの真っすぐで空振り三振。9回9奪三振の完封で、チームは2対0で3回戦進出を決めた。
[page_break:前半の粘りが完封に繋がった]◆前半の粘りが完封に繋がった
息詰まる投手戦を投げきった二松学舎大附の秋山の好投、特に序盤までの粘りのある投球がポイントになったのではないだろうか。
立ち上がりは雨も降る中で、制球を乱す場面が多く見受けられた。ストレートの走りもあまり良くない。苦しい立ち上がりだったことは間違いない。
しかし、中盤以降から雨も止み始めてくると、足場が安定し、秋山本来の投球が見え始めた。
角度を付けた力強い真っすぐが両コーナーに決まった。特に6回のピンチの場面では142キロを8球計測するなどトップギアの状態で、クロスファイヤーに果敢に投げ込んだ。まさに打者を圧倒する投球だった。
勢いそのままに、2点のリードを終盤も死守した。指揮官・市原監督以来の左腕の完封勝利を掴む結果となったが、グラウンド状況が整うまで粘った秋山の序盤の好投が、完封劇に繋がっただろう。
◆完封に繋がったプレートの使い方
この序盤の投球だが、秋山本人も足場の悪さに苦戦を強いられていたことを語っていた。その上で、秋山が講じた策は大胆だった。
「どうしても一塁側のプレートは滑ってしまったので、三塁側のプレートを使うと乾いていて大丈夫でしたので、そちらを使って投げるようにしました」
プレートが滑りやすかったことで、最後に左足を蹴りだす際に思うように投げることが出来ず、自身の中で狂いがあったとのこと。それで滑らない場所を探して、8割までセーブして制球力重視に切り替えて、凌いできた。そしてベストなポジションを見つけてからは、再び全力投球で相手打者をねじ伏せた。それが中盤だったのだ。
たかが投げる位置を変えるだけだと思われるが、マウンドから見える景色が変われば、感覚に違いが生じる。試合の中でやるにはリスクのように思えるが、「練習試合でもこういったことを想定してやったことがありました」と準備はできていたようだ。
向かっていく闘争心と冷静さの相反する要素と準備力が、秋山に実戦力をもたらし、甲子園での完封に導いた。3回戦以降も爽快感溢れる真っすぐでねじ伏せる姿を見せて欲しい。
[page_break:敵将も認める想定以上の投手]◆敵将も認める想定以上の投手
2対0の白熱の投手戦を演じるも、あと一歩及ばなかった西日本短大附。指揮官である西村監督は、「素晴らしい試合だったと思います」とまずは両投手の熱戦を労った。その上で、「秋山君のピンチでギアが入る投球は、噂通り、いや噂以上の投手でした」と相手エースの力投を称賛した。
しかし自チームのエース・大嶋の投球も見事だった。
大嶋自身、あまり調子は良くなかったようだが、130キロ後半を計測するストレートで押しながら、130キロ台のチェンジアップ系の変化球も多投して、的を絞らせない投球が光った。
この結果に大嶋は、「良い試合だとも思いましたが、負け負けです。勝たないといけない試合だったので、悔しいです」と鼻をすすりながら報道陣に応えた。
◆1人で立てた舞台ではないことをかみしめて
激戦区・福岡を勝ち抜いて甲子園までたどり着いた。11年ぶりの甲子園でマウンドに上がれたことに大嶋は「楽しかったです」と悔しさも感じながらだが、甲子の舞台を味わった。
そんな甲子園の舞台は「自分をより一層成長させてくれた舞台でした」と一言でまとめた。また、西村監督も選手へのメッセージとして、「1人でこの舞台に立ったわけではないので、そこを考えて活かしてほしいです」とメッセージを送った。
今年以上に周りに支えられながら甲子園を戦っている球児たちはいないだろう。それだけに西村監督の言葉には重みがある。
この言葉を胸に刻んで、西日本短大附の選手たちが、これからの人生で大きく成長してくれれば、この敗戦も意味のあるものになるのではないだろうか。
(記事:田中 裕毅)