都立広尾vs都立鷺宮
白熱の投手戦は都立広尾に軍配!140キロ右腕・石黒和が11奪三振完封勝利!
厳しい日差しを感じ、いよいよ夏の大会だと言うのがわかる神宮球場では、夏の暑さに負けない白熱の投手戦が繰り広げられた。
都立広尾と都立鷺宮による都立勢の対戦だったが、4回まではスコアボードに0点が並んだ。どちらが先に均衡を崩すのか注目が集まる中、5回に都立広尾が突破口を開いた。
6番・佐藤優作のヒットからチャンスを作ると、8番・手川真宏の犠牲フライで先制に成功する。さらにチャンスは続いて、1番・神川大地にもタイムリーが生まれて2点奪い、都立広尾が主導権を握った。
追いかける都立鷺宮も5回に、4番・浅野龍と6番・畠山晴喜が相手のミスで出塁して一死二、三塁と同点のチャンスを作った。ここで一本を出したかったが、都立広尾の石黒和の前に抑えられて無得点に終わる。また8回には代打・本蔵悠輔のヒットなどで都立鷺宮は反撃のチャンスを作ったが、ここもあと一本が出ずに無得点で攻撃を終える。
すると都立広尾は、9回にダメ押しの2点を追加して4対0として試合を決めた。最後は都立広尾の先発・石黒が1人で守り抜いてゲームセット。都立広尾が2対0で都立鷺宮を下して初戦を突破した。
試合時間はわずか1時間43分というスピード感で進んだ。投手戦だったことは時間だけを見ればわかることであり、両チームのエースが素晴らしかったのがわかるが、成績からも見ればわかる。
都立広尾の石黒は、9回投げて11奪三振、被安打2、与四死球2という成績だ。打っても4番を務める今年の大黒柱である。スラリとした体格だが、ゆったりとした始動から鋭く腰を回転させて、腕を力強く振り抜く。キレイにまとめられた投球フォームであると同時に、打者寄りでリリースされたキレのある真っすぐは非常に魅力的だ。
元々、石黒はストレートを軸に力押しするスタイルを武器にしていたという。そのスタイルをさらに磨くべく、藤川球児さんが実践していたボールを『つぶす』感覚でリリースをするようにした。グラウンドを持っておらず、あまり投げ込みができない都立広尾の環境でも、石黒は「指先の感覚をキャッチボールの時から意識している」ことで、最速140キロを投げ込むようになるまで成長を遂げた。
そんな石黒が指先の感覚を研ぎ澄まして磨いた武器は真っすぐだけではない。ストレートとともに都立鷺宮打線を惑わせたのは変化球、特にカットボールが有効だったのではないかと考えられる。
ストレートに近い球速からカットボールは鋭く変化していた。これがストレートと見分けがつかず、空振りをする打者が多かった。加えてカットボールであれば、ストライクゾーンで勝負できる分、カウントもしっかりと稼げていた。
畠山空(都立鷺宮) ※写真提供=都立鷺宮野球部
このボールを都立鷺宮は杉山監督の指示で絞っていたが、「一発で仕留めきれなかった」と悔しさを滲ませた。では一発で仕留められなかった理由はどこにあったのか。
「大会前はスライダー対策をしてきました。だからカットボールへの準備がしきれず、泳がされたり、ファールになってしまったと思います」(畠山空)
岩崎監督は「投げきってほしいとは思っていたので、良く投げ抜いてくれました」とエースの初完封を労った。総合力の高く、これから勝ち上がって良ければ面白い投手である石黒の次戦のピッチングも期待したい。
一方で敗れた都立鷺宮の畠山空は、5奪三振、被安打7、与四死球2と粘りの投球でリズムを作った。167センチ61キロと決して体格は恵まれているわけではない。しかし、それを補って全身を使った躍動感ある投球フォームからは、伸びのあるボールが投げ込まれる。縦回転の投球フォームから繰り出すスライダーやカーブも効果的で、都立広尾打線に的を絞らせることをしなかった。また、時折投球のテンポを変えるなど、投球術にも長けており、好投手であることは間違いなかった。
指揮官の杉山監督も、畠山の3年間の成長をこう振り返る
。
「センスがあってショートも出来ますし、ピッチングのなかでもメリハリをつけられる選手です。ただ軟式出身の選手でしたので、3年間で多くの経験を積んだと思います。良く投げてくれました」
今大会で初めてエースナンバーを背負い、「エースとしての責任を感じながら」投げましたと背番号1の重みを一身に背負って投げ抜いたが、勝ちはついてこなかった。そんな畠山は最後に「野球だけではなく私生活でも指導してもらってお世話になりました。楽しい3年間でした」と高校野球生活を総括した。
「努力の過程をもとに今後の人生に活かしてほしい」と杉山監督は話をしていたが、その言葉を胸に野球だけに限らず、都立鷺宮の選手たちが様々な場所でさらなる活躍をしてくれることを祈りたい。
(取材=田中 裕毅)
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