浦和実vs川越東

残酷な結末

　この日は一転して川越東にとって勝てる流れのゲームだった。
川越東は先発・一ノ瀬の好投もあり、ゲームをロースコアに出来た。だが、最後は残酷な結末で終わる。

浦和実業(以下浦実)は大方の予想どおり左腕・早川が先発する。川越東は昨日の勢いそのままに早川の立ち上がりを攻め、2番渡辺の左中間への2塁打などで2死1,3塁のチャンスを作るが5番・二羽が倒れ無得点に終わる。

すると、2回以降早川は立ち直り低目へ制球ができるようになると、ストライクからボールになるスライダーで三振をとっていく。結局7回まで川越東打線をパスボールによる1点のみに抑える。

　一方の川越東は背番号12の一ノ瀬が先発する。
この一ノ瀬だがこれまでは怪我でなかなか思うように練習ができなかった選手だ。だがそれも完治し3年の春の大会後の練習試合やブルペンでの内容が良く急に伸びてきた選手だ。
ストレートの球筋も良く角度も良いのだが、何より印象的なのは前の大宮西戦といい、この試合といい公式戦での登板がほとんどないにもかかわらずとにかく落ち着いていることだ。
この日も序盤こそややボールが高めに浮き1,2回共にフォアボールを1つ出したが、その後は制球も良くストレートと縦、横2種類のスライダーを低めに集める。大量失点はしないタイプだ。しかもスライダーのキレも良い。

「選手には見逃し三振でもいいから低めの変化球には手を出すな」
と浦実・辻本監督も指示していたが、浦実打線は低めのスライダーに手を出してしまう。
決して連打が出る状態ではなかったが、それでも少ないチャンスを物にする。2回表、1死2塁から6番瀬尾が左中間へタイムリー2ベースを放ち先制すると、1-1の同点で迎えた5回表には、1死3塁から1番・山口のセンター前タイムリーが出て2-1で勝ち越す。

さらに、8回表には1死2塁から5番上地の打席でワイルドピッチにキャッチャー中村(雅)の緩慢な守備も重なり、2塁走者稲垣が一気に本塁を陥れ生還する。これは重たい追加点になるかと思われた。

　だが、ここから川越東が猛反撃をみせる。2死1塁から4番・中村(雅)が先ほどの汚名返上とばかりにセンターオーバーのタイムリー3塁打が飛び出し1点差とすると、5番・二羽がピッチャー強襲のタイムリー内野安打で続き一気に3-3の同点とする。

そして、最終回の攻防を迎える。この回先頭の瀬尾がセンター前ヒットで出塁すると続く長島が送り1死2塁とする。8番・金田は凡退するが、続く早川がレフト前ヒットを打つのだがここで問題の場面を迎える。
このヒットでレフト永井があらかじめ前進守備を取っていたこともあり、打球を捕った時点でバックホームのタイミングは完全にアウトだった。
だが、当然この状況で浦実サイドはギャンブルで2塁走者をホームまで回す。

「9回、2死2塁どんな当たりでも突っ込ませろと指示をしていた。3メートル手前でアウトでもよし」(辻川監督)
と事前にサードコーチャーに伝えてあった。

ここで永井は中継に入ったサードへ送球する。この時点で辻川監督はよしと思っていた。永井の送球は途中からサードに入っていた1年生・中村(航)へ渡る。そして、次の瞬間、3塁側川越東スタンドから起こるはずの歓声が1塁スタンドから起こる。中村(航)が次のプレーを急ぐがあまりボールを落としてしまったのだ。
浦実が再び4-3と勝ち越して9回表を終える。

その裏、川越東も必死の反撃をみせる。1死から代打の加藤がレフト前ヒットで出塁すると2死後渡辺がライト前ヒットでつなぎ1,3塁とする。ここで
「できれば回したくなかった」(辻川監督)
という城下を迎える。そしてワンボールツーストライクから早川が投げたボールはいちかばちかの遅いカーブだった。ボールはインコース高めに行く。思わず見逃す城下に対し審判の判定はストライク。この瞬間川越東の夏が終わった。

　試合後辻川監督は、
「エラーが失点に絡んでうちの負けパターンだった。特に9回追いつかれたら川越東は昨日のこともあるし、絶対負けですから」
と勝ちゲームではないことを素直に認めたが、浦実は常にリードする展開ながらエラーなどで突き放せず8回裏に同点に追いつかれた。
それでも川越東打線に対し、一度もリードを許さなかった要因として、早川の好投が挙げられる。辻川監督も全幅の信頼を置いている早川の活躍が今後の浦実の勝ち上がりに大きな影響を与えることは間違いない。

　一方の川越東だが、今大会はノーシードで大会に臨んだこともあり前評判が悪かったが、昨年のレギュラーメンバーも多く残り、一ノ瀬という今大会直前で切り札も産まれた。当然情報も少なく、勝ち上がると対戦相手にとって昨年以上に嫌なチームになっていたに違いない。それだけにここで終わるのは残念だ。今年は打のチームとして実力をみせてくれたが、来シーズンは果たしてどんなチームに仕上げてくるのであろうか。

　そして、最後に一言あえて言わせてもらおう。皮肉にも9回表の失点が決勝点となってしまったが、エラーをした1年生は責められない。元々、対戦相手の辻本監督も獲得に動いた逸材であるだけに、彼にはこの悔しさをばねにし来年の夏スケールの大きな選手になって帰ってきて欲しい。

（文＝南英博）